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第45話 兄の結婚式に出ます

 今日のグラン領は快晴だった。領民たちも朝からお祭り騒ぎだ。

 領主の跡取り息子が花嫁を連れてきたのだ。これで領地も安泰だと歓迎しているのだ。


「本日はおめでとうございます。ミリア義姉様。スティーブ兄様をこれからもよろしくお願いいたします。それで、これをアナ様から預かってきました」

 そう言って二枚のハンカチを手渡した。それぞれのイニシャルと、グラン伯爵家の家紋の刺繍が入っている。

「まあ、アナリス殿下から。素晴らしい刺繡ですわ」

「はい。本当はミリア義姉様が出発されるときに手渡したかったようですが、間に合わなかったようで、あとから出る私に託されたのです」

 今年14歳になったアナ様は、花嫁修業も兼ねた刺繍にはまっているようで、この度結婚する自分の侍女と夫に、たくさんの祝いの品と、このハンカチを用意していたようだ。

 アナ様は15歳になったら、嫁ぎ先のユリゲーラ国の学園に留学する予定となっており、ミリア義姉様は、留学するまでは侍女としてアナ様にお仕えする予定だ。

「本当にお優しい殿下ですわ。王宮に戻ったらお礼を伝えますね。マリア様も今日は来ていただきありがとうございます」

「…あと、そちらはもしかして?」

 変装しているアロイス殿下だ。王族として参列すると、警備などがどうしても仰々しくなるだろうと考え、非公式な形をとることにしたのだ。今は魔法で見事な金髪になっている。それはそれで目立ってしまっていて、さっきから老若男女問わず見惚れてしまっていた。

 田舎のグラン領では、滅多に王都に行く者もいないので、この人物が王太子だとはバレないだろう。ということだ。ミリア義姉様はアナ様の侍女で、アロイス殿下とも面識があるのでバレることは織り込み済みだ。

「そうなのですね、本日は来てくださり感謝いたします」

「ああ、本当はアナが来たいと言っていたのだが、王宮から出すのも色々大変だから」

「承知しております。今は大事な時期でございます。こちらにだなんて滅相もございませんわ」

「ああ、あと一年妹をよろしく頼むよ。ミリア」

「畏まりました。全身全霊務めさせていただきますわ」

 隣で、兄はミリア義姉様を愛しそうに見ていた。学園時代に10回告白して、やっと頷いてもらえたのだと、兄の同僚の人がこっそり教えてくれた。幸せそうで何よりだ。

「スティーブもおめでとう。いずれは領地に戻るようだが、それまで王宮で働いてくれて、助かっている」

「そう言っていただけて光栄です。もう少し妹を見守りながら、王宮で働きたいと思っています」

「ああ、マリアも王宮に兄がいるだけで心強いと思う。これからも支えてあげて欲しい」

「はい、もちろんでございます」

 あとで、兄がこっそりやってきて、殿下が丸くなっていると驚いていたが、まあ、いろいろあったのです。


 神殿で、結婚の誓いを立て、披露の宴は夜中まで続くので、若い殿下と私は早々に退席してきた。今は二人で、屋敷の庭で食後の散策をしていた。

「あ~素敵でしたね。兄が緊張していて、こちらまで緊張してしまいました」

「ああ、僕たちも早く結婚したいな」

 前にも同じようなことを言われたけど、好きと自覚してからは破壊力が違う。ドキドキしながら、赤い頬に気づかれたくないな。と思って俯きながら同意した。

「マリア、こっちをむいて。今日よければ、誕生日の約束をくれないか?」

「え、約束って、私から…」

 確かに周りは誰も見えない、いや護衛の人は絶対どこかにいると思うんだけど、暗いので多分はっきりとは分からない。白猫の姿も見えない……。覚悟を決めた私は、殿下の肩に手を置き、背伸びをして微かに触れ合うキスをした。これが限界だった。真っ赤な私に殿下は微笑んで、蕩けるようなキスをした。

「ごめん、嬉しかったんだけどちょっと足りなくて」

 足りなかったから、おかわり。みたいな感じで、そのあと3回おかわりされた。家族もいる家でなんてことを……と、正気に戻ったのは寝る頃になってからだった。


 次の日は、少し早いけどと言いながら、私の誕生日を家族と殿下で祝ってくれた。懐かしい思い出話や、小さい頃に描いてもらった肖像画なども披露された。殿下は父に、費用は持つので私の小さい頃の絵を、何点か模写して送ってもらう約束をしていた。

 そして来年もグラン領に来られるようにすると約束してくれた。両親は殿下に感謝して、これからもマリアをよろしくお願いします。と言っていた。幸せだな。

「ねえ、母様、白猫のララを見ていない?」

「そういえば、今日は朝にケーキを食べてから見てないわね。明日出発だから、それまでに探さないとね」


 翌朝、ララはドロドロに汚れて帰ってきた。慌ててメイドが綺麗にして、渡してくれた。

「マリア、元気でね。殿下をしっかりお支えするのですよ」

「殿下、マリアのことよろしくお願いいたします。肖像画はでき次第送らせます」

「ああ、世話になった。マリアのことは全力で守ると誓うよ」

「父様、母様、お元気で。また来ますね」


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