第43話 グラン領へ帰ってきました
馬車で5日かけてグラン領に到着した。
兄たちは先に発っていて、私たちの到着を待っている。兄に結婚式の参列と殿下の同行を伝えると、かなり驚いていたが、喜んでくれた。
「10年ぶりに、マリアが家に帰ってこられるなんて嬉しいよ。父様たちや領民もきっと喜ぶよ。先に行って準備を整えておくから、後からゆっくり向かってくれ」
そう言われて少し泣いてしまった。そうか、もうすぐ誕生日がきて私は16歳になる。あれから10年経ったんだ。いろいろあったな。
ちなみに殿下の誕生日は夏季休暇に入る前に終わっている。プレゼントは何がいいかと聞いたら、少し照れながら爆弾発言をした。
「マリアからキスしてほしい」
『にゃ?』
ララが半眼で睨んでいる。雷の予感である。
「あの、それは……」
私は、真っ赤だ。
「今すぐじゃなくていいよ。楽しみに取っておくから」
「は、はい」
殿下が去ったあと、白猫は青空を曇天に変えていた。
『にゃにが~楽しみに取っておくにゃ~生意気にゃ~』
あわてて、シェフに生クリームたっぷりのケーキをお願いした。糖分はイライラを解消するらしい。あとでララに食べてもらおう。
「殿下、わがグラン領にようこそお越しくださいました。一同を代表して感謝いたします」
「ああ、グラン伯爵、今日からしばらく世話になる。マリアローズの育った聖地に来られて嬉しいよ。よろしく頼む」
「は、はい。聖地ですか。そうですか。まずは、お部屋にご案内いたします」
そう言って、家の中に入っていった。殿下と一緒に扉をくぐると、ふわりとなつかしい匂いがした。その家が持つ独特の匂いだ。帰ってきたんだと実感した。
「殿下、ようこそお越しくださいました。マリア、お帰りなさい」
母だ。領地に帰ってからは、一年に一度会えたらいいほうだ。
「母様、ただいま。最近体調を崩しているって、兄様が」
「ええ、少し結婚式の準備を張り切りすぎて、風邪をひいただけよ。もう治りました」
私は、抱き合った姿勢のまま、女神様に祈っておいた。母様がずっと元気でいられますように。と、ただのおまじないだ、たぶん……。
「マリアの部屋はそのままにしているのよ。でも何もかも小さいから、今日は別の部屋を用意していますよ。それと、この子がララね。一緒のお部屋でいいかしら?」
私の腕の中で、ララがにゃあと鳴いた。
殿下はさっきから無言だ。体調が悪いなら抱きついてみようか、と思っていたら、パッと顔を上げた。
「そうか、マリアはここで産まれたんだな。僕は君からそれをすべて取り上げてしまった。すまなかった。マリア、グラン伯爵、グラン夫人」
そう言って、頭を下げたのだ。家族はパニックだ。王族に頭を下げさせるなんて、と父は大慌てで止めていた。
「殿下のせいではございません。それが慣習だったのです。それでも陛下は6歳までここでわが子を育てる許可を出してくださいました。それだけでも異例のことでした。感謝しているのです。それに殿下は、幼いマリアを王宮で大切に守ってくださいました。ありがとうございました」
そういって両親は深々と礼をした。優しい自慢の両親だ。
それぞれの部屋に入って着替えをするため、殿下と別れて部屋に入った。
白猫姿のララはぐ~と伸びをした。
『ちょっとだけ見直したにゃん』
「え、なにを?」
『アロイスにゃ~。ちゃんと自分がしてきたことが、マリアにとってどういう事か理解していたのにゃ~。これでちょっとは束縛がへるといいにゃ~。そうしたら、また帰郷も叶うにゃ~』
「そうだね、また来年帰って来られたら嬉しいな」
『今のアロイスなら、たぶん大丈夫にゃ~』