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第40話 side王太子アロイスの後悔

 最初はこんなことになるとは思わなかった。


 馬車の中で、マリアが疲れていそうだったから気遣った。そしてほんの冗談のつもりで

「そうなんだ、もしかしてハリス公子のこと?」

と聞いてしまったんだ。すぐに否定してくれると思っていたのに、マリアが言いよどんだ。

 ただでさえ、ハリス公子がマリアと一緒に寝たことがある(子供の頃だ!!)だとか、愛称でシャルくんと呼んでいるのを聞いてしまってイライラしていた。このままだとマリアに対して暴言を吐いてしまいそうになった僕は、無言で馬車を降り去ったのだ。マリアが僕の態度を見て驚いているのも新鮮だった。少し困らせたいと思ったのだ。

 

 実際マリアは困惑して、こちらに声をかけてこない。いつもなら一緒にとる食事も、登下校も避けた。僕も少し意地になっていたのだ。僕ばっかりが好きなのだと。

 そして、次の日にハリス公子とマリアが愛し合っているという噂が流れた。庭で抱き合っていた、マリアをお姫様抱っこして廊下を歩いていたと目撃証言まであった。どんどん不機嫌になる僕に、焦ったロイドがハリス公子を連れてやって来た。

「別にロイドのためでも、殿下のためでもないが、噂は事実じゃない。あの時マリアはひどい体調で貧血を起こして倒れたんだよ。僕が支えたのを見た生徒が抱き合っていると勘違いしたんだ。そのあと医務室に運んだだけだ。とても歩ける状態じゃなかったからな」

 そういえば侍女のマーサが、マリアの食欲がないと心配していたな。

「そうか、マリアを助けてくれて感謝する」

「…僕はマリアを好きだから助けたんだ。それだけだ。今回は退くけど、このままマリアをないがしろにするなら、次は遠慮しないよ」

 そう言って去っていった。ライバルながらいい奴だ。でもマリアは渡せない。早く話をしないといけない、そう焦れば焦るほど、気持ちが邪魔をして行動できない。どうやら避ける癖がついてしまったようだ。王宮では、マリアの飼い猫にまで睨まれている気がする。


 そして今日も悩んだ末、先に登校してしまった。自分でも後悔している。何でこうなった?

 2階の窓からマリアが登校してくるのを眺めていた。いつもこっそり見ているのは内緒だ。隣のロイドの視線も冷たい。

 マリアが歩いてくる途中、パシャっと水が弾け飛んだ。なんだ?そう思っていたら、今度はマリアの隣に植木鉢が落ちて砕けた。はっ?どういう事だ、まさか誰かがマリアを害そうとしたのか?女神の加護のおかげでマリアは無事だ。でも様子がおかしい。

 僕は、慌てて風魔法を発動して、2階の窓から飛び降りた。マリアに女生徒が何人か近づいていく。マリアはガタガタ震えて呼吸が荒い。

「女神の愛し子様は加護に守られ、アロイス殿下ばかりか、隣国のハリス公子にまで守られて羨ましいですわ~ホホ」

 エラン侯爵家のミランダ嬢だ。あいつ、いい加減にしろ。ほんとに追い出したい。エラン侯爵は素晴らしい人物なのに、なんで母娘は最悪なのだ?

 マリアはパニックになり過呼吸をおこしているようだ。慌てて駆け寄り抱きしめた。顔を胸に押し付け呼吸を遮った。

「マリア、ゆっくり吐いて、落ち着いて、大丈夫だ」

「ア……」

 僕は背中をゆっくり撫ぜながらマリアを落ち着かせる。それにしてもこの怯えようはなんだ?何かされたのか?

 僕は視線をミランダ嬢に向けてゆっくりと問い質した。

「エラン侯爵家のミランダ嬢、これはいったいどういう事だ?何故マリアはこんな目にあっている?」

「ひぃ…ア、アロイス殿下、これは、その……ああ、そうですわ。植木鉢が落ちてきたので大丈夫か聞いたのですわ」

「ほう、僕の耳には違う言葉が聞こえたのだが?確か女神の愛し子様の加護が?なんだったか」

「あら、そのような、ホホ。いやですわ。気のせいですわ」

「そうか、ミランダ嬢。だが覚えておけ、次はないぞ」

「しょ、承知いたしました。これで御前失礼いたしますわ」

 ミランダ嬢は、取り巻きを連れて、優雅に去っていった。なんて太々しい。

 エラン侯爵に警告だけはしておこう。このままミランダ嬢が、マリアに手を出し続けるなら、エラン侯爵家にも監督責任を問わねばならない。エラン侯爵は温和で人徳者だ。国の議会でも多くの支持者がおり、一目置かれていると聞く。だが、これは国の問題だ。女神の愛し子を害することがどういう事を引き起こすのか、それが分かってないのか?


 ああ、それは僕も同じか……遠くの空で雷が鳴っている。きっと女神様が自分の愛し子を泣かした僕に怒っているのだ。

 先ほどまで雲一つなかった空は、今は雨雲に覆われている。ポツリと雨粒が僕の頬にあたって落ちた。マリアが濡れてしまう。

「マリア、少しの間我慢していて。医務室に行こう」

 僕は、マリアを横抱きにして医務室に向かった。呼吸は安定していたが、顔色は真っ青でぐったりしている。

 僕がしてしまった仕打ちが、この結果なのだと、そう雨音が僕を責めている気がした。

 ごめんマリア。


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