第38話 すれ違いは辛いです
「ごきげんよう、マリア。……何かありましたか?昨日から元気がないようですし、アロイス殿下も一緒ではない……」
「リリー、あの私……あ、いえ、少し本を読みすぎて寝不足なんです」
何を言っていいか分からなくて、とっさに言い訳をしてしまった。自分の気持ちが分からない。殿下が離れて行ってしまう。胸の中がざわざわする。どうして??
昼休みも殿下は現れなかった。授業中は同じ教室にいる。でも、それだけだ。自分から話しかける勇気も出ない。なんて情けない……
休み時間にシャルくんが私のところに来て、そのままぐいぐい庭に連れていかれた。
「なあ、マリア、どうしたんだ?朝からずっと変だよ。殿下と何かあったのか?僕が余計なことを言ったからか?けんかしたとか?」
「……けんか……?それなら良かったのに、仲直りできるし…分からなくて、自分がどうしたいか、どう想っているのか、ちゃんと言えなくて。ダメ……」
クラりと目の前が一瞬暗くなった。あ、昨日の夜から何も食べてないや……
「おい、大丈夫か⁈真っ青じゃないか。僕に寄りかかれ」
シャルくんが腰を支えて倒れないようにしてくれた。完全に貧血だ。さすがに女神の加護も効かないようだ。
シャルくんに寄りかかる形になってしまったが、どうしよう動ける気がしない。力が入らないのだ。
そしてこの状況はまずい。ここは人の目が多い。さっきからチラチラ見られていた。
「ごめん、シャルくん。ちょっと貧血みたいで、動けない。どうしよう?」
「はは、僕に聞かれても。仕方ないから横抱きにしていいか?このままここにいても良くならないだろ?医務室に行こう」
「そっか、そうだね。申し訳ないけどお願いしていい?」
「ああ、任せろ」
さっと私を横抱きにすると、軽々と医務室に連れて行ってくれた。線が細いと思っていたけど、どうやら細マッチョみたいだ。
医務室の先生に私を託して去る時に、シャルくんが耳元でこっそり囁いた。
「殿下がダメなら僕に乗り換えてもいいよ」
今の私には、まさに悪魔の囁きだ。心が弱っている時になんてことを言うのだ。
医務室の先生が差し出す貧血に効くという激苦薬草茶を飲んで、しばらく休んでから教室に戻った。気のせいか、ジロジロ見られている気がする。そうリリアーナに言ったら驚くべき噂を聞いた。もちろん事実無根である。