第36話 攻略対象者が絡んできます
「僕のマリア、お待たせ。」
アロイス殿下が入学の挨拶を終えて、席に戻ってきた。私の隣にはリリアーナと反対側に何故かシャルル・ハリス公子が座っている。席は自由なのでどこに座ってもいい。いいのだが、ちょっとその場が凍り付く。気温がぐっと下がった。実際に下がった……焦ったロイドが席を立つ。
「殿下、こちらへどうぞ。」
リリアーナも空気を読んだ。結果、私はハリス公子と殿下にはさまれて座っている。
「あの、シャルくん、この席でいいの?従者の人困ってない?」
「いいんだよ、僕は久しぶりにマリアに会えたんだ。側にいたいんだ。」
王子様スマイルでそんなことを言う。周りの女生徒がうっとり見とれている。
「僕のマリア、ハリス公子と知り合いなのかい?」
「はい、昔領地にいた時に、少しの間、ハリス公子が滞在していたことがあって。」
「いやだなマリア、一緒に寝た仲じゃないか、いつも通りシャルくんと呼んでくれよ。」
出た、悪魔のシャル……何余計なことを言っているの⁈
「一緒に寝た……だと。」
気温が一気に下がった。ロイドが泣きそうな顔で私を見てくる。会場のみんなが凍える前になんとかしないと。
式典が終わるころには、疲れた顔のロイドと私がお互いの健闘を称えた。良く乗り切った。
「ただいま~ララ。」
『おかえりにゃ~。何か疲れてないかにゃ?』
「聞いてララ、攻略対象のハリス公子が、実は領地で遊んでいたシャルくんで、今日会ってからずっと殿下にケンカ腰で、すっごく焦ったよ~もう少しでみんな氷漬けになるところだった。」
『ああ、気管支炎だった子供にゃ~。』
「え、ララ知っているの?最後にシャルくん私のこと、命の恩人、って言っていたの。」
『マリア、気づいて無かったにゃ?あの時私に必死にハリス公子を治してと祈ったにゃん。小さい体で、あの子が苦しがる度に祈ったにゃん。』
「まさか、女神の愛し子のチート使っていたの?」
『そうにゃん、グラン領をたつ頃には完治にゃ~』
「え~~~っ」
『感謝するにゃ~。女神の愛し子の癒しの力は、純粋な祈りなのにゃ。』
「でもね、転生前の記憶では、私シャルくんと全然接触した覚えがないのよ?どうして今世では積極的に絡んでくるの⁈」
『あ~それにゃ~。二度目の転生の時に言ったにゃ。生まれた時に時間を戻すと運命が変わる人が多数出るから反対されたにゃと。それで10年戻したけど、誰の運命も変えないのは無理にゃん。多分ハリス公子も運命が変わった一人にゃん。』
「どこが変わったの?」
『転生前のマリアローズは、良くも悪くも何もしていなかった。今世のマリアは、積極的に物語を変えようと動いたにゃん。それは少しずつ人に影響を与えるにゃ~。リリアーナとチャールズが婚約したのもそうにゃ。何もしていなかったマリアローズのことは隣国のハリス公子の元には届かないにゃ。でも、マリアはいろいろしたにゃ。子供の時のお茶会の企画、あれも新聞に取り上げられてハリス公子も読んでいるにゃ。孤児院の識字率を上げる取り組み。職業訓練を導入。それ以外もすべて記事になって各国に知らされているのにゃ。』
そうなのだ、断罪崖落ち防止計画の一環で、私はお茶会以外にも積極的に動いていた。孤立無援では誰も助けてくれないと、一種の強迫観念だったのかもしれない。だから、前世の記憶も総動員して、いろいろやらかしている。
本当は孤児院で慈善活動がしたいと言ったのだ。でも、殿下が孤児院に行くことに難色を示した。仕方がないので、外出しなくても出来る事を考えた。それを殿下に提案したのだ。
孤児院の子供は15歳になると独立する。でも、字が読めない子供たちは路頭に迷うことが多い、お金が無くて犯罪に手を出す、と聞いたのだ。ならば、孤児院で文字を教える、ついでに生活に必要な計算も教えては?と。
講師派遣や初期投資は多いけど、そうすれば犯罪に手を染めずに働ける子が増えて街は活気づくし、犯罪率も下がる。そうしたら警備や治安にかける予算が減る。
まあ、そんな風に思いつくまま殿下に提案したのだ。殿下は提案したことを実現可能な限り実行して、それをすべて私の手柄にしてしまった。それが新聞などの情報誌に載ってしまったのだ。前世の日本で中学まで義務教育は当たり前、識字率がとても高い国で育った私には、その提案は特に考えたわけでもなく普通の提案だった。ただこの国の常識ではなかっただけだ。終わってから、ララに『やらかしたにゃん』といわれて愕然としたのだ。
先に教えておいて欲しかった。
『たぶんにゃけど、元気になったハリス公子は、マリアローズのことをいい思い出にして忘れていたにゃん。なのに、今回のマリアは新聞や噂なんかにもなって、嫌でもハリス公子の元に届くにゃ~。しっかり覚えていて、さらに思いを募らせる結果となったにゃん?』
思いを募らせる?は気になるが、確かにリアルタイムで私のしたことが隣国に届いていたなら、忘れることはないな。それで今回は絡んできたのね。
「それでどうしたらいいの?」
『知らないにゃん。マリアがどちらを好きか選べばいいにゃ。ちょうど、アロイスはやめた方がいいと思っていたにゃん。ルート変更したらいいにゃん。』