第33話 王立ローズウェル学園に入学します
寒い冬が終わり、日差しが暖かく降り注ぐ王都には、春咲きの薔薇が咲き乱れている。ローズウェルには、四季それぞれに咲く薔薇があるが、特に春は種類も多く一番華やかな季節だ。
今、私は期待に胸をふくらませて、殿下と一緒に馬車に揺られている。
そう、今日から乙女ゲーム[聖なる薔薇と5カ国物語]の舞台になっている、王立ローズウェル学園に入学するのだ。転生前に通っていた記憶はあるが、前世の記憶を思い出した私には、何もかもが新鮮に見えるのだ。
私が前世でプレイしていたゲームの世界が、リアルに目の前に広がるのだ。まさに聖地巡礼なのだ。わくわくが止まらない!!
「マリアは朝から楽しそうだね。学園に行くのが嬉しいのかい?」
「はい、たくさんの人たちと出会って、一緒に学べるなんて嬉しいです」
「そう、たくさんの人が君に夢中になるのだろうね。僕は少し心配だよ」
いや、夢中になるのは私にではなく、殿下にではないだろうか?容姿もそうだけど、最近は執務も公務も積極的にこなし、王太子として自信がつき、男性としても更に魅力的になっているのだ。
いつもそばで見ている私でさえ、見とれてしまうほどだ。学園に通う女生徒の視線はきっと殿下に釘付けになってしまうだろう。さすが攻略対象ナンバーワンキャラである。
私が女神の愛し子でなければ、殿下の隣どころか視線を交わすことも叶わない存在だったはずだ。いや、乙女ゲーム的にはヒロインなのだ。でも、自分のアイデンティティとして、何も持っていないような気がする。要は自分自身に自信が持てないのだ。
この学園でしっかり学んで、私は殿下に相応しい婚約者だと、堂々と言える人間になりたいと秘かに決意していた。
「マリア、僕は先に入学式の会場に入っているから、あとからゆっくりおいで。くれぐれも知らない人にはついて行かないでね。特に男性には気を付けて」
「はい、殿下。入学生代表の挨拶、頑張ってくださいね」
「ロイド、マリアを守ってくれよ」
「はい、殿下。お任せください。安全に会場まで護衛いたします」
「ああ、頼りにしているぞ。」
いやいや、ここは学園です。戦場にいるような緊張感をもって会話する二人を見守るしかない状況に、この先の学園生活が不安になってきた。過保護すぎる。
「お久しぶりです、ロイド様。本日はよろしくお願いいたします」
「ああ、マリアローズ嬢。久しぶりだな。ここのところ、訓練ばかりで王宮に顔を出す機会がなかった。今日は会場まで一緒に行かせてもらうよ」
体育会系わんこ男子。ロイド・ミラー。正義感も強い聖薔薇の攻略対象者の一人だ。ミラー伯爵家の長男で将来は近衛騎士団、王太子の警護を担う。
殿下の正式な側近となり、最近は訓練に明け暮れていたらしい。子供の時に初めて会ったやんちゃな少年は、訓練を重ね、会う度に立派な騎士に成長しているようだ。
聖薔薇で、ヒロイン・マリアローズがロイドルートを選ぶと、友人から少しずつイベントをクリアして近づいていく。すれ違い要素もありハラハラドキドキイベントも多いルートとなっている。無事ハッピーエンドになると、情熱的に愛を囁かれメロメロになる、ある一定層に大変支持されているルートだ。
「マリア、こっちですわ」
ロイドとしゃべりながら会場に入ると、前の席に座っているリリアーナが声をかけてくれた。
「リリー、今日からよろしくお願いいたします。同じクラスで安心しました」
「ええ、私も嬉しいですわ。楽しい学園生活になりそうですね」
事前にクラス分け試験が行われていた。貴族なら誰でも入学可能な学園だが、家での勉強過程を試験で判断し、進捗によってクラス分けされるのだ。王妃教育をクリアしている私やアロイス殿下、側近のロイド、リリアーナとエラン侯爵令嬢のミランダ様、隣国のシャルル・ハリス公子も同じクラスだ。これは乙女ゲームの設定と同じだ。
私がまだ会えていない攻略対象は、隣国からの留学生シャルル・ハリス公子だけだ。少し楽しみだ。
リリアーナたちと選択授業は何を取るかの話していると、前方から、フワフワのハニーブロンドにヒスイ色の瞳のいかにも王子様な人物が近づいてきた。
「あれ……」
見覚えがある。どこか懐かしい雰囲気もする……でもこの人、シャルル・ハリス公子だ。
そう、まだ会えてない攻略対象……だよね?だってゲームで見たスチルそのままだ。