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第31話 side兄スティーブ・グラン

 俺は、スティーブ・グラン。グラン伯爵家の長男で、マリアローズの兄だ。

 

 5歳の時に我が家に天使がやって来た。空色の大きな目、ピンクブロンドのふんわりした髪。マシュマロのような頬も食べちゃいたいほどだ。可愛い要素でしかできてない妹は、なんと生まれた時のギフト判定で(女神の愛し子)だと判明した。やっぱりだ、こんな可愛いのだ、女神様にも愛されて当然だ。そんな自慢したい気持ちはすぐに焦りに変わった。

 王宮から使者が来たのだ。

 

「女神の愛し子であるマリアローズ様は、王宮で保護し、お育てするのか慣例でございます。今すぐに王宮へお渡しくださいますよう」

 何を言っているのかわからなかった。産まれたばかりの妹を王宮に?まだ首もすわってない、家族の顔もわかっていない赤子を???

 話し合いは夜中まで続いていた。僕は眠れなかった。可愛い妹を奪われるかもしれない…不安で涙が止まらなかった。


 翌朝、両親は疲れた顔で食堂に現れた。

「父様、母様、マリアは?まさか王宮になんて行かせないよね⁈」

「ああ、今回は使者様にお帰りいただけた。私は今から陛下に拝謁するため王都に向かうよ。スティーブ、母様とマリアのことをよろしく頼むよ」

 いつもは少し気の弱い父が、頼もしく見えた。

「うん、まかせて。父様がんばって陛下にお願いしてきてください。僕の妹を奪わないでくださいって」

 子供ながらに今、人生の岐路に立たされた気分だった。ここで妹を奪われたら僕は一生後悔するような気がしていたのだ。


 父は1週間ほど王宮で滞在し、話し合いを重ねたようだ。グラン領に帰ってきたときは何だか老け込んだように見えた。それだけ神経を使ったのだろう。

 「陛下は理解を示してくれたよ。幼い子をいきなり家族と引き離すのは忍びないと。だが、神殿や大臣たちが女神の愛し子は王宮で育てるべきだと強気でね」

「もしかして連れていかれるの?いやだよ」

「今すぐは、ご容赦してもらえた。マリアが6歳になったら王宮に行く。それと、1か月前に誕生された第一王子アロイス殿下の婚約者に決まった」

「……」

「ごめんよ、スティーブ。でも、我々は後悔しないように今出来る事をしよう。マリアにとって家族は私たちだ。王宮でも神殿でもない。できるだけ沢山楽しい思い出を作ろう。幸せな子供時代を持っていれば、きっと強く歩いて行けるはずだ」

「わかったよ、父様。僕はマリアの兄様だから、一緒にたくさん遊ぶよ。領地のいいところを沢山教えてあげるんだ」

「ありがとうスティーブ。アンナ、守りきれなくてすまない」

「いいえ、あなた。すぐにでも連れて行くと使者様が言っておられたのです。それを、5歳までは手元において育てることが出来るなんて、交渉を頑張ってくださってありがとうございます」

 母様は、泣きながらお礼を言っていた。これはもう決定なのだと子供でも理解できた。

 

 可愛いマリアはちょっぴりお転婆に育った。僕と領地の子供にまじって野山を走り回っていた。4歳からは、王宮に行くために家庭教師を付け僕も一緒に勉強した。そして、マリアが5歳になって、あと1年で王宮に行く日、両親はマリアに事情を説明したのだ。

 僕は同席していなかった。扉の向こうからマリアの泣き声が聞こえる。嫌だと叫んでいる。僕も嫌だ。扉の外で僕も泣いた。

 

 そして、その日が来た。

「マリア、王宮に住んでからも会うお許しを頂いているからね。いつでも会いに行くから、元気で頑張るのだよ」

 王宮からの迎えの馬車に乗って、マリアは行ってしまった。

「さあ、私たちも引っ越しだ。1週間後には王都だね」

 両親は、幼いマリアを一人で王宮暮らしさせるのは忍びないと、王都にあるタウンハウスで家族も住むことを決めた。もちろん僕もだ。そこからなら王宮にも通えるようだ。領地は信用が置ける管理者を一年前から探していた。父様は領地を行き来することになる。

 マリアが嫌がって泣いたときに、すでに両親はこのことを計画していたらしい。

 それから月に数回、王宮に両親と共にマリアに会いに行っている。王宮に来て半年くらいは、あまり元気がなくて心配していたけど、半年を過ぎたころからマリアの様子が明るくなった。よく、婚約者のアロイス殿下のことが話題に出るようになった。

 僕はまだ、殿下に会っていないからわからないけど、マリアは殿下を慕っているみたいだ。兄の僕より殿下なのか。ちょっと嫉妬を覚えた。


「スティーブ兄様、お仕事ですか?」

「ああ、マリア。この書類を外務の部署までね」

 2年前学園を卒業した俺は、王宮の文官として働いている。両親は俺が学園を卒業した時に領地に戻った。マリアの様子は、定期的に俺が知らせている。マリアも15歳になり、デビュタントで王太子と幸せそうに踊っているのを見た時はホッとした。よかったな。


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