第26話 二人の悪役令嬢
「もう、リリー笑ってないで助けてください」
「申し訳ありませんマリア、ふっふっええ、助ける気はあったのですが、口を開いたら笑いが止まらなくなると思いまして。ふふ、すごい方でしたわね。でも、マリアのセリフは傑作でしたわ。縦ロール……ふふ」
「リリーはエラン様、ご存じでしたか?」
「詳しくはありませんが、昔から王宮に出入りを許されていらして、殿下とは小さい頃は遊び相手も何度かは……ただ噂ですが、殿下につきまといすぎて、途中からは王宮に入れなかったと聞いたことが……」
きっとそれは、家庭教師が一掃されて、エラン夫人が王宮から遠のいたから?
悪役令嬢……できれば学園を平穏に終えて断罪されずに卒業したい。リリアーナはチャールズルートの悪役令嬢。ミランダ様がアロイスルートの悪役令嬢だ。ただ、リリアーナはそのチャールズ様と婚約をした。この状況でいきなりアロイス殿下とどうにかなるとは考えにくい。私が今、一番気を付けないといけないのはミランダ様?
「マリア、マリア……」
「……あ、アロイス殿下、すみません。ボーとしていました」
チャールズ様がリリアーナを迎えに来たので、見送った後、私はバルコニーで一人悪役令嬢の情報を思い出そうとしていた。
「マリア、一人でバルコニーにいるのは感心しないな。ここは人目が少ないし、何かあった時助けられない」
「すみません。一人でゆっくり考え事をしたかったのです。そうですね、考えなしでした」
「うん、もしマリアに何かあったら王宮を吹っ飛ばしそうだから、気を付けて欲しいな」
笑顔の殿下だが、冗談に聞こえない。ここにいる人たちのためにも気を付けよう。
「さて、マリア。もう一度最後に僕と踊ってくれるかい?今度はみんなも踊っているから緊張せず、楽しめると思うんだ」
「はい、喜んで」
夢のような心地でワルツを踊り切った。だが、そのあとの殿下からのお願いに固まった。
「ねえマリア、僕は君が望んだとおりに、たくさんの令嬢と踊ったよ。今度は僕のお願いを聞いてくれるよね。あと、2曲は君を独り占めしたいんだ」
同じ人と続けて踊るのはマナー違反だ。許されるのは婚約者や夫婦だったかしら?
「転ばないように頑張ってみます」
私を独占しご満悦の殿下が破壊力満点の笑顔で踊る。笑顔にあてられた淑女の屍が積みあがったと、しばらくの間王都でまことしやかにささやかれたとか、いないとか。