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第25話 王太子祝賀舞踏会

「今宵は我が国の第一王子アロイスの成人、立太子の儀を祝うため集まってくれたことを感謝する。また今年成人を迎え、新たに社交に参加する若者よ、おめでとう。これからの君たちの活躍に期待している」


陛下のあいさつが終わった。実は今、私はガチガチに緊張している。

「さあ、マリア。僕とファーストダンスを踊っていただけますか?」

優雅に一礼する殿下の周りは、声にならない悲鳴でいっぱいだ。

そう、これから二人だけでファーストダンスを踊るのだ。例年は新成人が初めにフロアで踊る、というものなのだが、今回は王太子のデビュタントだ。当然のように、二人きりで踊ることが決定事項となっていたのだ。

「はい…喜んで」

表情筋を総動員して微笑んだ。殿下のエスコートで中央のフロアまで歩いていく。そして、ワルツのリズムに合わせて優雅にステップを踏む。

「フフ、緊張しなくても大丈夫だよ。二人でたくさん練習したじゃない。上手に踊れているよ。僕にリードはまかせて」

殿下は軽やかにステップを踏みながら完璧にリードしてくれる。ダンスが苦手だった私の練習に、公務が忙しい中付き合ってくれたのだ。転生前の記憶があって王妃教育はクリア出来ても、運動センスのない私は2度目の転生でもダンスにつまずいたのである。勿論、前世でダンスなんてしていない。

何とか一曲、殿下の足も踏まず、転ばず踊り終えることが出来た。二人向き合い礼をした。

次の曲が始まり、新成人たちがフロアへ出てきた。素早く会場の端に向かいながらチラリと見ると、リリアーナが少し緊張した様子でチャールズ様と踊っているのが見えた。

「チャールズのやつ、僕にもリリアーナ嬢のこと内緒にしていたんだ。婚約が正式にとおるまで隠し通すなんて、ちょっと怒ってしまったよ。まあ、歳の差を考えれば黙っていたのも仕方ないのだろうとは思うけどね」

「そうですね。私も聞いたのは最近です。幸せそうで、親友の私としても嬉しいです」

「ああそうだね。このまま学園も早く卒業して、僕たちも結婚したいね」

「……はい」

歳を重ね、さらに殿下の色気が増したのか、何気ない言葉ひとつでドキドキしてしまう。


ダンスを終えた新成人たちがこちらの方に戻ってきた。

「すまないマリア。これから何人かの令嬢にダンスを申し込まないといけない。でも、どうしても嫌だと、君が思うなら……」

「あ、殿下、これからリリーとお話をする約束をしていますの。殿下と踊れることを楽しみにしている令嬢の夢を奪うことは、私には出来ませんわ。行ってきてください」

ずっとマリアと踊りたい、という殿下を笑顔で送り出した。こんなに素敵な殿下を独り占めなんてしたら、断罪される前に恨みを買って殺されそうだ。これも、断罪崖落ち防止計画の一環だ。皆からの恨みも嫉みも出来るだけ避けたい。


「マリア、お待たせしましたわ」

リリアーナがこちらにやって来た。チャールズ様も従妹がデビュタントらしくその子の相手も頼まれているらしい。残った二人でゆっくりしようと約束していたのだ。

「どこでお話ししましょうか?」

会場を歩いていると、正面に白いドレスを着た女性が立った。今年デビュタントなのだろう。つまり同じ歳だ。彼女は真っ赤な薔薇をスカート部分にたくさんつけていた。イメージは逆さの花束が動いている感じだ。髪はミルクティー色で、見事な縦ロールだった。ドリル巻き?

「ごきげんよう、マリアローズ様。わたくしエラン侯爵家のミランダと申します。以後お見知りおきを」

「はい、よろしくお願いいたします。エラン侯爵令嬢」

まさかのエラン夫人の娘だった。そう言われれば、エラン夫人もミルクティー色の髪色だった。マナー講師をしていたエラン夫人は殿下が解任してくれた。あれ以来会っていないので忘れていた。

「わたくしアロイス王太子殿下とは、幼い時から遊んでいたのですわ。殿下のことなら一番詳しいと自負しております。今日も先ほど一緒にダンスを踊っていただきました」

何だろう、マウントを取りに来たのだろうか?でも、このセリフどこか既視感を覚えた。

―――エラン侯爵家のミランダ……⁈

「あっ!!」

そうだ、このドリル巻き!この顔も見覚えがある。アロイスルートの悪役令嬢ミランダだ!!

「わたくしの顔になにか?」

「あ、いえ、美しい縦ロールに見とれてしまって」

とっさに出た言い訳に、隣でリリアーナがブッと小さく吹き出した。肩が小刻みに震えている。きっと笑いをこらえているのだ。親友なら笑ってないで助けて欲しい。

「まぁ、わたくしの髪型の素晴らしさがわかるなんて、見る目がありますわ~オホホ」

ブブッ隣でまた小さな音がした。どうやらリリアーナの笑いのツボに見事にはまったようだ。親友が呼吸困難になる前にここから撤退しよう。

「あのエラン侯爵令嬢、先ほど給仕に用事を言いつけたのを忘れていましたわ。名残惜しいのですが失礼いたします」

少し速足でその場を辞した。なんだろう、どっと疲れた。


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