第23話 side男神ルールの回想 その②
二人の前に、赤い髪の娘が走り出てきた。
「アラン様を返してください!!」
王太子の目に少しだけ光が戻った気がした。
ラーラも王太子の様子に気づいたようだ。
「なぜ?この人は私のモノよ。邪魔をするなら排除するわ。――死になさい!!」
なんと、ラーラはナイフでその娘を害そうとしたのだ。娘の上に乗り上げたラーラがナイフを娘に突き立てようとした時だった。正気に戻った王太子がラーラを突き飛ばした。
「私のカーラに何をする!!」
完全に部外者の自分は見ていることしかできなかった。よかった、あのままラーラが娘を殺せば、間違いなくラーラは神でいられなくなる。
「私を見てください!私を愛してください!!」
悲鳴のような声でラーラは叫んでいた。
「無理だ、私はカーラを愛している。二度と私の前に現れないでくれ!次は容赦しない」
王太子に、はっきりと拒絶されたラーラはフラフラと森の奥へ歩いて行った。自分は慌てて後を追った。
ラーラの体の周りには、黒いモヤが纏わりつきじわじわと色を濃くしていった。まずい…闇堕ちだ!!まさかこんなに早く?焦った自分はラーラの元へと行こうとした。
その時、もう一人のラーラ、つまり異世界にいる方のラーラの声が聞こえた。
「う~。ルール~助けて、人を殺しちゃった~。車でひいてしまったの。私も彼女も死んじゃった。私のせいで!!」
泣きながらパニックを起こしているラーラに落ち着くように言う。
「それで、どうしたい?」
自分は内心焦っていた。目の前ではまさに今、半神のラーラが闇に引きずり込まれているのだ。このままでは神という柱を失ったローズウェル国は、崩壊してしまうかもしれない。
「戻りたい、でも彼女の魂も一緒に転生させたい。二人ともそっちへ連れて行って!」
「わかった、今すぐ来い!!」
時間はなかった。半神のラーラが完全に闇に堕ちる前に、異世界からラーラを迎え入れ、闇に染まっていない半神部分をラーラに戻す必要があった。必死だった、平和な国が消し飛ぶ前に2つの魂を異世界から引っ張ってきた。そして、ラーラを半神に戻したのだ。
ラーラの黒い部分はモヤとなって飛んで行った。その時は焦っていて正常な判断が出来なかった。きっとそのまま、小さな黒いモヤは消滅すると思っていた。
「それで、その魂は?」
女神に戻ったラーラはにっこり微笑んだ。
「もちろん、この世界のヒロイン、マリアローズとして転生させるわ~。愛し子のチートも付けちゃう」
ヒロイン?チートってなんだ??
あっちの世界に行ったせいか、ラーラの訳のわからない言葉が増えた。
やがて王太子は王になり、テレス公爵家から赤髪の美しい娘、カロラインを王妃として迎えた。
二人は婚姻後、ほどなくして子供を授かる。第一王子アロイスだ。
その頃、異世界から連れてきて不安定だった魂が安定した。魂は一か月遅れでグラン伯爵婦人の元へ送った。
第一王子アロイスが産まれた一か月後に、マリアローズという可愛い女の子が無事に誕生したのだ。ラーラは産まれてすぐのマリアローズに、女神の愛し子の加護を与えた。
「本当にごめんね~。償いには足りないとは思うけど、これで許してほしいの。マリアローズとしてアロイスと幸せになってね。あっ別に違うルートでもいいんだよ~」
何故アロイスなのか?ルート?いろいろ解らないが、明るいラーラが戻って本当に良かった。
まさかあの時放置してしまった黒いモヤが、長い時間をかけてその後の世界に干渉するなんて、その時の自分は思いもしなかったのだ。