第20話 天才魔術師ルルーシェ・ブラックに遭遇しました
「ララ~、おーいどこにいるの?相談したいことがあるから出てきてよ~」
朝から白猫姿のララを探していた。
怪我がすっかり良くなり体調も万全になって、今日やっと私は部屋の外に出ることを医師から認められた。白猫ララも私の部屋に入ることを禁止されていたので、刺された直後から会えていない。相談したいことが山ほどある私は、白猫を発見するべく王宮を歩いているのだ。
「おーい、ララ~、ぎゃっ!」
柱の角をのぞきこむことに気を取られて、前を見ていなかった私は人にぶつかって変な悲鳴を上げてしまった。淑女失格だ。
「申し訳ございません。失礼致しました」
慌てて礼をとる。ここは王宮なので上級貴族も多数歩いている。第一王子の婚約者が粗相をするわけにはいかなかったのに……。背中を冷や汗がつたった。
「ふーん、君もしかしてマリアローズ嬢?」
礼をする私の上に少年の声がふってきた。そろりと顔を上げると、同じくらいの身長の男の子が立っていた。王宮魔術師のマークが入ったローブをまとっているようだ。そんな子は一人しか思い浮かばない。隠しキャラの攻略対象ルルーシェ・ブラック……⁈
「はい、グラン伯爵家のマリアローズと申します」
「そう、自分は一応ここの王宮魔術師をしているルルーシェ・ブラックだ。白猫を探しているのか?さっき神殿の方で見かけたが。あいつは自由すぎて探すのが大変だろう」
「え、ララを知っているのですか?確かに突然いなくなるので探すのは大変で……」
「やっぱりな、本当に適当な奴だ。これやるよ」
そう言って、ルルーシェ様はポケットから小さな魔石を取り出して私に渡してくれた。綺麗な金色の魔石だ。
「これにララを探せと念を送れば、ララのいる方向へ光が伸びる。ないよりましだろ」
「ありがとうございます。こんないいモノを頂いていいのですか?」
「ああ、あいつが迷惑かけているんだからこれくらいするさ。じゃあな」
そう言って、去っていった。なんだかララとかなり親しそうな言い方だ。ヤンデレキャラのはずだが、子供のせいかそんな感じはしなかった。
「さて、ララを探して」
魔石に念を送った。金色の光がスッと神殿の方へ向かった。
「もう~ララ、探したんだよ」
白猫は神殿の奥にある女神像の前で寝そべっていた。ひんやりとした大理石は気持ちよさそうだ。
『ごめんにゃ。最近4柱と黒いモヤについて調べていて、ちょっと疲れたから休んでいたのにゃ~』
「そう、お疲れ様。神殿はやっぱり特別な場所なのね」
『そうにゃ、パワースポットにゃ』
なるほど、そういえばここは清浄な空気を感じるし、心が軽くなるような気がする。
『それ、何にゃ~』
手に持っていた金色の魔石をララが見つけて聞いてきた。
「ああ、これはララを探していたら、魔術師のルルーシェ様がくれたのよ」
『げっ、ルルにゃ』
ララは嫌そうな顔をした。やっぱり知り合いのようだ。
『あいつは口うるさいにゃ~。だまって手伝って欲しいのにゃ』
「ララはルルーシェ様の知り合いなの?」
『ん~、腐れ縁にゃ~。生まれた時からいるのにゃ』
生まれた時から?確か、ルルーシェ様も私と同い年だから、白猫のララも10歳なのかしら?おばあちゃん猫?いや、ララは猫じゃないから???
『なんか違うこと考えてそうだにゃ……説明が面倒にゃ……』
『で、なんで探していたのにゃ?』
「ああそうそう、いろいろ相談したいことがあって、最近ララに会えてなかったから」
『もしかして、黒いモヤにゃ?』
「そう、私を襲った庭師から黒いモヤが出たの。あとで殿下に聞いたんだけど、あの庭師の人、ここ最近の記憶が曖昧になっていて、私を襲ったことなんて覚えていなかったのよ」
『やっぱりそうにゃ、転生前と同じなのにゃ。黒いモヤが何かの目的をもっていろいろなものに干渉していると4柱も言っていたにゃ』
「何かの目的?転生前から……それってまた……」
『だ、大丈夫にゃ!そうにゃらないように、今は私も、4柱も対策をいろいろ立てているにゃ。ただ、なかなか決定的な解決方法がなくて探しているところにゃ』
「でも、襲われた時も女神様の加護が無くなっていたし、殿下の魔法も通じなかった。いつもなら素早く駆けつける護衛まで、何かボンヤリしていたと証言するし。本当に何を信じていいか分からなくなってしまうのよ」
『これを渡しておくのにゃ』
ララは、前足で器用に2つのペンダントを渡してきた。トップに親指ほどの大きさの魔石が付いていた。その石は5色の色が混じりあって、オパールのような光を放っていた。
「綺麗な石。2つあるわ」
『5柱の神の加護が宿っているのにゃ。ラーラの加護は黒いモヤには通じない、というのが4柱の考えなのにゃ。だから、簡易的に他の神にも加護を付けてもらったにゃ。これを肌身離さず持っていて欲しいのにゃ。1つはマリアローズに。もう1つはアロイスに』