第12話 お茶会の開催です
王妃様と一緒にお茶会を企画し、打ち合わせを繰り返しながら仲を深めた。打ち合わせ中にドレスの着せ替えが追加されていたのは今でも解せないが、無事お茶会を開催する運びとなった。
会場となる王宮の庭園には、子供たちを連れた貴族が続々と来場して賑わっていた。無邪気に会話を楽しむ子供たちに反して、同伴の親は他家の子供たちを見極め、よい縁を得られるよう画策しているようだ。早い子たちはそろそろ婚約者が決まるし、こんな機会はそうそうないのだ。私は生まれた時からアロイス殿下と婚約しているので婚約者探しは必要ない。リリアーナとお友達作戦に集中したいところだ。
「もう来ていたんだね。僕のマリア。準備はどう?」
「アロイス殿下、ごきげんよう。素晴らしい天気で嬉しいです。今のところ順調にいっているようです」
風でスカートがふわりと舞った。
「そのドレスよく似合っていているよ、すごく可愛いね」
「素敵なドレスを送って頂き、ありがとうございます」
そうなのだ、今日のお茶会に合わせて殿下はドレスや靴、それに小物一式まで揃えて送ってくれたのだ。5日前に届いた沢山の箱にマーサは興奮しっぱなしだった。
「殿下の愛ですわね。見事な一品ですし、お色も……うふふ」
送られてきたドレスはガーデンパーティー用にミモレ丈になっていて、スカート部分にシフォンとレースがふんわり重ねられた可愛いらしいデザインだった。ただドレスは全体的に淡い紫色で、裾の部分には可愛らしい黒のレースがついていた。誰が見てもアロイス殿下の色だと分かる。靴も黒でアメジストが散りばめられていたし、髪飾りは同じシフォン生地でリボンを作り、こちらにもアメジストが付いていた。そう、全身アロイス殿下一色なのだ。かなり照れ臭い。
「母様と一緒に頑張ってくれたマリアを一番可愛くしたかったんだ。想像以上だ。その色、よく似合っているよ」
アロイス殿下が満足そうに紫色の目を細めた。
今日の殿下は、グレーの上下。胸ポケットに私と同じ紫の生地をチーフ使い、襟にアクアマリンのブローチをしている。私の瞳と同じ空色だ。
「アロイス殿下もとても素敵です」
「ありがとう、本当は君の髪色のピンクで服を作ろうとしたんだけど、さすがに露骨すぎると止められてしまってね。残念だったよ」
全身ピンク…止めてくれた方、グッジョブです。
今回のお茶会は、リリアーナと出会うのが目的なので、出来るだけ動き回れるように普通のテーブル席以外に、気軽に座れるベンチもたくさん配置した。飲食は給仕ではなく、立食形式でデザートを取りに行けるようにした。イメージはケーキバイキングだ。もちろんお茶や果汁水も数種類を自由に選べる。遊具を配置し子供が楽しめるよう大道芸や、魔術師の幻術ショーもしてもらえる。私の目的を達成するためのお茶会ではあるが、招待された子供たちにもぜひ楽しんでもらいたい。
ただ、色々詰め込んだせいでお茶会の範囲を超えてしまったような気はする。いや楽しいは正義だ。
「マリア姉様、今日は素敵なお茶会を計画してくださってありがとうございます」
「アナ様、ごきげんよう。来てくださって嬉しいです。いろいろと用意しているので楽しみにしていてくださいね。アレクシス殿下は参加できないようで残念です」
「そうなのよ、アレクは楽しみにしすぎて熱が出てしまって、本当に可哀そうだわ。先ほど会いに行ったのよ、マリア姉様と遊ぶって泣いていたわ」
「まぁ、それは申し訳ないことを。後でお見舞いに行ってきますね」
4歳のアレクシス殿下もとっても可愛い天使なのだ。
「駄目だよ、マリアに熱がうつったら困る」
「…アロイス殿下、大丈夫ですよ。私、女神様の加護持ちですからほとんど病気になりません」
「そうだね、でもやっぱり心配だよ。もしマリアが何かに害されたら…そんなことになったらと考えるだけで魔力が暴発しそうだよ」
「アロ兄様、さすがにひきますわ、その発言」
アナ様が本気でひいている。
私は、そんなに心配してくれるなんて嬉しいと思ってしまった。なんたって前世の推しなのだ。
そんな考えをしている自分に少しひいた。
王妃様が開会のあいさつをされ、いよいよお茶会開催だ。王妃様はこのお茶会を私が準備したのだと紹介していたが、それは少し褒めすぎだ。もちろんその場で否定はできず、照れながら微笑んでおいた。
今日は殿下の側近候補で、乙女ゲーム聖薔薇の攻略対象も会場に来ているので少しワクワクしている。まだゲームが始まる歳ではない子供時代の攻略対象なんてレアだ。以前殿下に側近候補に会ってみたいと頼んだことがあったのだが、頑として聞き入れてもらえなかった。理由を聞いたら「会ってマリアが減ったら困る。」と訳の分からない事を言われた。
断罪崖落ち防止計画のためにも、この機会をうまく利用して、皆様とも仲良くなっておきたいと思う。