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番外編 ① side王太子シャルル 帰国後のお話

 マリアにちゃんと振られた僕は、帰国後立太子の準備に追われていた。あれから1か月が過ぎ、少し気持ちも落ち着いてきた頃、陛下から呼び出しがあった。どうやら僕の婚約者に内定した令嬢との顔合わせがあるらしい。

 任せると言った手前断ることも出来ないし、帰国後すぐに婚約を!という大臣たちをなだめ、僕が落ち着くまではと父や陛下が気を使ってくれていたのも気づいていた。だからすぐに応じた。


 案内された部屋で待っていたのは、僕の知っている令嬢だった。確か小さい頃に僕の婚約者候補としてあがっていた内の一人だ。当初は5人ほどいた婚約者候補も、僕がマリアに夢中になっている間に、1人減り、2人減り……、もう残ってないと思っていたが、残っていたのか?


 5歳の僕は、マリアのおまじないで元気になり、今まで我慢していた事が出来るようになった反動で、遊ぶことに夢中になって少しの間マリアのこともすっかり忘れていた。

 けれどいつからか、隣国の新聞や情報誌に女神の愛し子、マリアローズの活躍が掲載されるようになった。その記事は、それまで忘れていた初恋のマリアのことを意識するには十分だった。子供たちのお茶会は変わった趣向のもので楽しそうだったし、孤児院の識字率を上げる提案や、子供たちの職業体験、それ以外にもわくわくするような記事が沢山あった。

 僕はマリアのことが載った記事に夢中になった。同じ年のあの可愛いマリアが大人顔負けのすごいことを実現していくのだ。あまりにも僕が夢中になるから、父さまや陛下が揶揄って【想い出の君】なんて呼び出す始末だ。だから婚約者候補になんて興味もなかった。


 マリアへの思いを募らせた僕は、陛下との交渉の結果1年の約束で、マリアの通う王立ローズウィル学園に留学することに成功した。いくら初恋の思い出と言っても、会ったのは10年前なのだ。本人に会えばこの気持ちも落ち着くと思っていた。

 そして、入学式当日に彼女に会って僕は後悔をした。僕の中のマリアに鮮やかな色がついた。可愛かった少女は成長して、より魅力的な女性になっていた。そう、前より好きになってしまったのだ。でもマリアには、婚約者のアロイス殿下がいた。せめて政略的なものなら良かったのに、マリアとアロイス殿下は明らかに想い合っていた。僕の入れる隙間は無かった。それでも側にいることを止められなかった。

 結局マリアを傷つける形で失恋した僕は、誰が婚約者になっても興味も好意も、何も感じないと思っていた。


 目の前の令嬢がゆっくりと僕に近づき、美しい所作で淑女の礼をした。顔を上げる彼女の綺麗なエメラルドの瞳と目が合った。

「お久しぶりですわ、シャルル公子様。ウィンドル侯爵家のバーバラです。この度はお時間を頂きありがとうございます」

「ウィンドル侯爵家……キャサリン姉様の降嫁先の……?」


 帰国後すぐに僕はキャサリン姉様を訪ねて行った。陛下からは降嫁することがキャサリン姉様の希望だと聞いていたけど、本人からきちんと聞きたいと思ったのだ。面会の申し込みはすぐに受け入れられ、会うことが出来た。

 久しぶりに会った姉様は、びっくりするほど綺麗になっていた。恋をすると女性は綺麗になると聞いたことがあったが、女王になるという重責から解放され、幸せそうに微笑む姉様を見て、降嫁することがキャサリン姉様の希望だと僕は聞く前に確信した。

 少し申し訳なさそうに、私が女王になるのは精神的にも、国の情勢的にも無理だと思うから降嫁したいと聞いたときも、僕は素直に受け入れられた。本来ならもっと早く降嫁したかったはずなのに、僕が留学している間、王太子としてキャサリン姉様は頑張ってくれていたのだ。これから僕が引き継ぐことに異論はなかった。


「はい、この度兄がキャサリン王女殿下を娶ることになりました。わがウィンドル侯爵家と致しましても、大変光栄なことでございますわ」

「そうか、君はサミエル殿の妹か……でもそれならば、他に婚約者がいてもおかしくない年ごろでは?」

「そうですわね。それはもうかなりの数の縁談を申し込み頂きましたわ。わたくし、結構もてますのよ」

「……そうか」

「ですが、こう見えてわたくし一途なのですわ。他の殿方とシャルル公子様を比べるなんて出来ませんでしたの」

 ……かなり変わった娘のようだ。そういえば、陛下が退室する時に僕に楽しそうに、『とっても美しい娘さんだよ。でも面白いお嬢さんなんだよね』と、ウィンクしてから去って行ったが、こういうことか。

「5人いた婚約者候補の皆様が、あなたを諦めて1人また1人と別の方と婚約されていきました。」

「そうだったのか……」

「ええ、あなたは気づきもせず、二言目にはマリア、マリアと言っておられましたし、わたくしの事も、目にも留めていなかったでしょう」

「……そうか、それはすまなかった」

「でもわたくし、皆様に勝ちましたわ。公子様が見事に失恋され、わたくしの夫になるのです。両親に逆らって、婚約しなくて良かったですわ。ふふふ」

 勝ち誇った顔でふふふと笑う顔に何故か目がいく。勝気なエメラルドの瞳に美しい豊かな黒髪。どこかアロイス殿下と似たような雰囲気の……いや、毛を逆立てた黒猫か?

「なんだか可愛い……」

 思わずつぶやいていた声が聞こえたのか、バーバラ嬢はみるみる真っ赤になっていく。

「気を使わなくて結構ですわ。わたくし可愛くなんてないのです!!」

 ますます毛を逆立てた黒猫のようだ。撫でたら気持ちよさそうだ。たぶん、引っ掻かれそうだけど……

「いや、君は可愛いよ」

 僕が微笑むと、バーバラ嬢は更に赤くなった。ああ、素直で可愛いな。この人が僕のお嫁さんになるんだな。

「そんなお世辞には騙されませんわ。それにわたくしを愛して欲しいなんて言いませんわ。わたくしがその分あなたを愛したらいいのですわ」

 堂々と片想い宣言する、その姿さえ凛として、それでいて可愛い。そうか、僕は盲目的にマリアを崇拝するあまり、周りの子を見てなかったんだな。バーバラ嬢はきっと子供の時も子猫みたいに可愛かっただろう。ちょっと残念だ。


 今はまだ失恋の痛みがあるけど、思ったより早く君のことを友人だと言えそうな予感がするよ、マリア。


作者としては、シャルル公子がお気に入りでした。最後に少しハッピーエンドになって欲しい。

お読みいただきありがとうございます。

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