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第109話 卒業記念舞踏会をもう一度

 短い秋が過ぎ、季節は冬。あの事件の後、平穏な学園生活を楽しんだ私たちは、後期の授業を全て終え、王立ローズウィル学園の卒業の資格を取得した。卒業式はなく、その代わりに学園の大広間を使って、卒業記念舞踏会が開かれるのだ。

 卒業生全員とその家族、婚約者などが参加して開かれるだけあって、かなり大規模なものとなっている。転生前、私はこの舞踏会でアロ様に断罪された。今ではそのことが信じられないくらい、社交界でも二人は仲睦まじいと評判になっている。3か月後の結婚式の準備も順調だし、怖いくらいに幸せだ。



「お待たせ、マリア。さあ行こうか。入場も僕たちで最後だよ」

「はい、アロ様、よろしくお願いいたします」

 いつものようにアロ様にエスコートされて入場する。卒業生は婚約者、もしくは親族などにエスコートされ入場する度に紹介されるのだ。王太子のアロ様は最後に入場することになっていたので、私も一緒に最後の入場になる。皆に見られるのはちょっと緊張するが、そろそろ慣れないといけないと思っている。3か月後結婚すれば、私も王族となって公務に参加する。恥ずかしがっているわけにもいかないのだ。

 

 名前が呼ばれ、扉が開いた。今日の私はアロ様の瞳の色、アメジストの様な紫色のドレスだ。腰には幅広の黒いリボンでアクセントをつけている。首元にはブラックダイアモンドを散りばめた夜空のようなネックレスが輝いている。卒業を祝ってアロ様から送られた品だ。アロ様は白のタキシードに空色の刺繍が施してあり、胸元にはブルーダイアモンドが輝いている。アクセントにピンクのポケットチーフが入っている。このコーディネートもかなり慣れてきた。アロ様はいつも大切な場面には、黒と紫のドレスを好んで送ってくれるのだ。

「マリア、今日も綺麗だよ。いろいろあったけど卒業おめでとう」

「アロ様もおめでとうございます」

「学園長の挨拶が終わったら、僕たちがファーストダンスを踊るから頑張ろうね」

「はい、デビュタントを思い出します。あの時よりは上達できたでしょうか」

「ああ、完璧だよ。だから楽しもう」


 会場では、チャールズ様にエスコートされたリリーと、ロイド様にエスコートされたローラ様と挨拶をした。そう、ロイド様にエスコートされたローラ様、つまり、だ。

「あらためまして、ローラ様、ロイド様、ご婚約おめでとうございます」

「ありがとうございます、マリア様」

 最近社交界を賑わせたのが、ミラー伯爵家の長男ロイド様と、聖女でもあるアシュレイ男爵令嬢ローラ様の婚約発表だ。私とリリーがモヤモヤしながらも見守った恋がやっと成就したのだ。思いのほかロイド様が奥手だったことが原因なのだが、ある伯爵家の男子生徒がローラ様に卒業記念舞踏会のパートナーを申し込んだことを知って、焦ったロイド様がいきなりプロポーズするという快挙?に発展、ローラ様が承諾したことにより、いきなり婚約者として今回卒業記念舞踏会にエスコートされることになったらしい。勢いは大切だけど、もう少し早くして欲しかった、とリリーと私が思ったのは内緒だ。


 しばらくすると、学園長から卒業記念舞踏会と卒業を祝う挨拶があった。そして、舞踏会の演奏が始まった。

「マリア、君と初めに踊る栄誉を僕に与えてくれるかい?」

「はい、喜んで」

 フロアの中央で向かい合ってホールドの姿勢をとった。そして曲に合わせてアロ様のリードでステップを踏み出した。最近は夜会に参加する機会も多く、ダンスにも慣れてきた。いつもダンスパートナーはアロ様なので、二人の呼吸もピッタリだ。今日は3曲続けて踊って欲しいと事前にアロ様から言われていたので、1曲目が終わってアロ様と私に盛大な拍手と讃美の声が上がった後も、そのままフロアに残っていた。

 2曲目からは卒業生がパートナーを伴ってフロアへやって来て一緒に踊る。皆それぞれ卒業を喜びながら、楽しそうにフロアを舞っている。リリーは幸せそうにチャールズ様と、ローラ様は少し恥ずかしそうにロイド様と踊っている。

 

「アロ様、なんだか夢のようです」

「ああ、僕も嬉しいよ。君とこうしてこの場所で踊ることが出来た」

 私も同感だと微笑み返す。くるりとターンをして、丁度視線が二階の柱のところにいった時、見覚えのある顔に目がとまった。そこに冥王様に大切に抱っこされたリリアさんがいた。一瞬びくりと体が動いた。少しだけ不安がよぎった、また何か起こるのではと思ったのだ。でも、リリアさんが、嬉しそうに手を振っている。もしかしたら黒いモヤの意志でここに来たのかもしれない。でも、悪い予感はしなかった。

『あの時はごめんなさい、そしてありがとう。お幸せに』

 そう言われたような気がして、同じ場所を見るとそこには誰もいなかった。

「マリア、どうしたの?」

「いえ、知り合いがいたように見えたのですが、気のせいだったみたいです」

「そうか。3曲目も踊れそうかい?疲れたなら休もう」

「大丈夫です。とっても楽しいです」

 

 きっと悪いことは起こらない。断罪崖落ち死亡エンドは完全に無くなった。そう信じられるだけの努力も行動もしてきた。これだけやってダメなら、何回転生したって無理だろう。


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