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第10話 アロイス殿下とのお茶会

 今後の作戦を考えながら歩いていると前方から声がした。

「ご機嫌いかが、僕のマリア」

 8歳のアロイス殿下だ。なんだか懐かしい。そして、やはり天使だ。

 断罪前はこんな風に呼んでくれていたのだ。僕のとは……照れながらカーテシーをする。

「お待たせいたしました。アロイス殿下」

「僕も今来たところ。今日、アナは呼んでないからね。ゆっくり二人きりでお茶を飲もう」

 サッと手をひかれ会場である小さな庭に出る。ここはアロイス殿下と初めて対面した庭だ。ここで週2回お茶会をしていた。講師解任事件の後から何故か始まった習慣だ。

 妹姫のアナリス殿下とはお茶会で初めて対面したが、今では、アナ様マリア姉様と呼び合えるほど親密だ。2歳年下とは思えない聡明な王女様で将来は隣国ユリゲーラに嫁ぐことが決まっている。断罪が行われた時はすでに隣国へ留学し母国を離れていた。

 アナ様が居れば断罪や修道院送りにはなっていなかったかもしれない。


 薔薇が咲き誇る庭のガゼボのテーブルには可愛らしいお菓子がいくつも並んでいた。どれも最近私が気に入っているものだった。いつもお茶会のお菓子には不思議と私の好みのものが並ぶことが多い。今日は王都で人気のチョコレートケーキが並んでいた。

「今日は何を学んだの?」

 席に着くとアロイス殿下はいつも今日習った内容を聞いてくれる。苦手な教科でつまずいたときなどは、講師の先生より解りやすく教えてくれるのだ。きっと王妃教育に苦しんで泣いていた私のためだ。同じ年なのに既に学園を卒業できるほどの知識を有しているらしい。この国の王子様は万能すぎる。

「今日は建国神話と歴史の授業でした」

「そうか、建国前から守護誓約か、女神ラーラ様のお話だね。どうだった?」

 アロイス殿下の後ろにこっそり隠れている白猫と目が合った。

「はい、建国前の初期5か国になるまでの争いの時代から人類滅亡の危機、その後5柱の神々と王族の先祖との守護誓約や、神殿で女神ラーラ様が祀られるまでの流れを一通り教えていただきました。戦争後に浄化のために国中に薔薇が植えられたのだと初めて聞きました」

 そうなのだ、[聖なる薔薇と5カ国物語]というタイトルの乙女ゲーム、前世の私はあまり意味を気にしていなかった。でも実は、ちゃんと意味があったのだ。

「戦争で穢れた国土を浄化するため、特別な薔薇を女神様が与えてくださり、そのおかげで不毛な地が蘇ったのですね。穢れた土地には初め黒い薔薇しか咲かなかったと聞きました。私は黒い薔薇を見たことがないのですが、アロイス殿下はありますか?」

「僕もないよ。そうか、よく理解できているね。さっき偶然、講師のラリーヌ夫人に会ったけど、すごくマリアを褒めていたよ。理解も見識の広さも人が変わったように優秀だと」

 頑張っているね。偉いね、とアロイス殿下は褒めてくれたが、人が変わったという言葉にドキリとした。前世の記憶持ちの上、人生2周目はチートすぎる。

 私は照れたように笑ってお茶を一口飲んだ。少し緊張していたのだ。今日は殿下に大事なお願いをするつもりだった。白猫ララが今だ、と目で合図してくる。

「アロイス殿下、お願いがあるのですが…」

「えっマリアが僕にお願い…勿論マリアの願いなら何でも叶えてあげるよ。何だろう、国宝級の宝石?それとも二人きりで過ごせる離宮でも建てる?」

 何やらとんでもないものが送られそうな気がして慌てて遮った。

「…いえ、あのお茶会を開いていただきたくて」

「お茶会?」

「はい実は、私6歳の時に領地から王宮へ来て、ずっと同じ年頃の子供と接する機会がなくて。恥ずかしながらお友達がいないのです」

 白猫ララと相談して、まずはリリアーナと接触することを目的としたお茶会を開くことにした。と、いっても子供の私が、王宮で勝手に子供たちを集めてお茶会を開くことは無理だろう。そこで、今日のお願いである。

「私、お友達が欲しいのです」

「マリア、僕がいるじゃないか、一応アナや弟のアレクもいるし……」

「はい、もちろんアロイス殿下やアナ様アレクシス殿下も私によくして下さいます。ですが、それではこれからアロイス殿下と共にこの国の王妃になる私の人脈としては弱いのです。アロイス殿下のために人脈を広めたいのです!」

「僕のために……僕の王妃、共に……」

 何やらブツブツとつぶやいていた殿下が、薄っすら頬を染めて頷いた。

「ああ、わかった。僕のマリアは偉いね。母様にお願いしておくよ。王妃の招待で大々的にお茶会を開こう」

「ありがとうございます。あの、ぜひホワイト伯爵令嬢のリリアーナ様を招待してほしいのです!!」

「ホワイト伯爵のリリアーナ嬢?何か面識があるのかい?」

「いえ、なんとなくリリアーナ様とは趣味が合いそうだと思ったのです」

 苦しい言い訳だとは思う。殿下の後ろにいるララが前足を組んで瞳をウルウルさせた。

「駄目でしょうか……」

 私も胸の前で手を組み、上目遣いでアロイス殿下を見上げてから悲しそうに俯いて見せた。ララ曰く、これが一番お願いを聞いてくれる方法だと言っていた。少し涙目でウルウルさせると更にいいらしい。もちろんウルウルさせた。

「~~わかったよ。必ず招待する」

 片手で口元を押さえながら横を向いた殿下の耳が赤くなっていた。チョロい……


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