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第107話 魂を説得するのは大変です

[お疲れ様。マリアローズ、一日経ったけどその後何か変化はあったかい?]

「あの、まだです。もう一日経ったのですか?ここはずっと明るいので、時間が分かりません」

[ああそうか、ではこの砂時計をあげよう。この砂が落ちきったら2日経ったことになる、つまり君は完全に死者となる]

 そう言って、ランドールは大きな砂時計を空間から出した。それはちょうど私の背丈ぐらいの大きなもので、落ちる砂は差し詰め私の命なのだろう。これが落ちきったら、私は二度とアロ様に会えない……

「あの、お願いがあるのですが、この魂はいったい誰か教えてください。何も分からなければどうやって出てきてもらうか、説得のしようもありませんし」

[ああ、そうだな。それくらいは言ってもいいだろう]


 ランドールは、何やらメモのようなものを取り出した。

 曰く、この魂はリリアという人間で、人間に化けた冥王様の恋人だったらしい。二人は愛し合っていたが、冥王様は自分のことを神だとは言っていなかったらしい。二人は順調に愛を育んでいたが、ある時娘の住んでいた村で病が流行ったらしい。

 間が悪いことに、冥王様はその流行り病で亡くなった人たちの処理に追われて、恋人に会いに行けてなかった。恋人の死を知ったのは、その流行り病で亡くなった人の中に彼女の魂がいたからだったらしい。

 恋人の魂は、すぐに冥王様の目の前に連れて来られて、そこで初めて自分の恋人だと思っていた人が、冥王様だと知った。勿論その時に、冥王様はちゃんと黙っていたことを謝って、これからも魂でもいいから、側にいて欲しいと願ったそうだ。でも魂は、混乱して冥界から逃げたみたいだ。そして、私たちが魂を探したわけだ……

 

[それからずっとこの状態で、そろそろ魂が弱ってしまって、このままでは消滅の危機なんだよ。困ったよね]

「事情は分かりました。では、この魂にどうして出てこないか聞かないと、ですね。ねえ、リリ、ドラゴンみたいに言っていることが分かったりしない?」

『わかる……こわい、いってる』

「こわい?冥王様が?」

『……じしんない、めいおう、しんじれない、ずっと、うそついて、あい、しんじない』

「そうか、それは辛いね」

 私はそう言って、卵を触るとそのままおまじないをした。勇気が出ますように、傷ついた心が癒えますように。

『……あたたかい、きもちいい』

「そう、よかった。それで、リリアさんはどうしたいのかな?」

『……どこか、ちがうところ、うまれかわる、このこい、わすれたい』

 その時、ガタッと音を立てて冥王様が出てきた。どこかに隠れて様子を見ていたようだ。

「待ってくれ、リリア。愛しているんだ。側にいたい」

『このまま、あなた、ふれあいたい、できない、かなしい、わたし、だめ』

「どんな君でも愛している。リリア、例え触れられなくても、君の存在があるだけで……」

 リリは首を振っていた。

『さわれない、かなしい、あなたにふさわしくない』

「それでも、それでもリリアと一緒にいたい。愛しているんだ」

 リリはじっと考えていた。そして決心した顔で私を見た。

「リリ?どうしたの」

『マリア、だいすき。ララもすき、おうきゅう、みんな、すき』

「リリ?」

『リリ、ここ、のこる。このたましい、リリいっしょになる』

「どういう意味?のこる……」

『リリ、このたましい、うつわ、なる』

「それって、リリはどうなるの?」

『リリ、だいじょうぶ、たましい、いっしょ、さみしくなくなる』

「でも、リリは……」

『リリ、あいされたい』

 確かに、黒いモヤは愛されたいと言っていた。一人は嫌だと……でも。

「この魂、リリアさんと一緒になれば、冥王様はリリも含めてこの人を愛せますか?」

「勿論だ、どんな姿でも受け入れよう。例え毛むくじゃらな猫でも……愛してみせる」

『……わかった、リリ、がんばる、たましいは、いいか?』

 卵はコクリと頷いた。

「ああ、猫になっても愛しているよ」

『それは、ない、リリ、にんげん、なれる』

 そう言うと、リリは卵を抱きしめて光に包まれた。そして、光がおさまるとそこには5歳くらいの少女が立っていた。灰色の髪に、ピンクトルマリンの瞳の美少女だ。リリが子猫だったから、この子も幼児になったのかしら?

「ああ、リリアの瞳の色だ。君なんだねリリア。愛しているよ」

 そう言って、冥王様は幼女に抱きついた……その姿は親子もしくは、犯罪だ……。

[冥王様、あまり過激なスキンシップは控えた方がいいかと……その、幼女はさすがに]

 ランドールがやんわりと冥王様をたしなめる。

「ぐう、わかった。リリアが大きくなるまで待つ……」

「リリ?も、いるの」

「はい、います。同化したと言った方がいいと思います」

「人間になったのですか?」

「違うような気がします。リリは神様だったのですね。私自身、人間とは違う感覚です」

「そうか……ではすぐに大きくはならないのだな」

[……冥王様……]

 ランドールが呆れた目で冥王様を見た。

「いや、何年だって待つ、何百年だって待てるさ!でも、出来るだけ早く大きくなってくれると助かる……」

「ふふ、では待っていてください。ハーディー」

 美少女は、可愛らしく微笑んだ。冥王様は真っ赤だ。

「リリア、ああ、可愛い、可愛いぞ!!」

 幼女をひたすら愛でる美男子……冥王様の変な扉を開いてしまったような気もするが、リリも、リリアさんも幸せなら、子猫のリリがいなくなって寂しいけど、これでいいのだと思う。きっと冥王様なら、リリごとリリアさんを愛してくれるはずだ。


 いつの間にかランドールが隣に立っていた。

[ありがとう、マリアローズ。約束通り君の魂は現世に返そう。多分、あっちでは私のやった事がいろいろバレている頃だと思うし、怖いから送っては行かないよ。君が素直で、人を疑うような子でなくて良かったよ。これでも君のこと結構気に入っていたんだ。失敗したら一緒に暮らせて、それもいいかと思っていたんだけど、あの子猫に邪魔されたな]

「え?どういう意味?」

[ほら、急がないと時間切れになってしまう。では、またね。マリア]

 その瞬間、フッと意識が途切れた。


 そして、フッと意識が浮上した。どうやら無事に体に戻ってこられたようだ。

 薔薇の香りに包まれて、ヒンヤリとした大理石の台に寝かされているようだ。目をゆっくり開くと、神殿の天井が見えた。

 

「……マリア、マリア……」

『生き返ったのにゃ。良かったのにゃ、本当に良かったのにゃ』

 疲れ切った顔のアロ様とララが私の側にいた。

「あの、ただいま。アロ様、ララ」

「マリア、マリア……おかえり」

『おかえりなのにゃ。』


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