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第106話 side王太子アロイス 絶望と希望

 僕は重い瞼を開けた。先ほどまで剣で刺されて、激痛が走り呼吸もままならなかった……

「まさかっ」

 僕は飛び起きて周りを見渡し、そこに眠る様に倒れているマリアを発見した。横には泣き崩れる白猫がいる……

「……ララ、うそだ、マリアが僕を助けたのか……何故止めてくれなかった⁈お前はマリアが大事だったのだろう、僕なんか死んだって……」

『そうにゃ、マリアが大切にゃ。でもそのマリアが、アロイスを助けることを願ったのにゃ。止める事なんて出来ないのにゃ。悔しいのにゃ、結局またマリアを助けることが出来なかったのにゃ』

 僕はマリアの前に座り込んだ。まだ実感なんてわかない。今にも目を開きそうなマリアの頬をそっと両手で包み込んだ。その頬は冷たく、僕に現実を突きつけた。

「……マリア、お願いだ、僕を置いて行かないで。君がいないと僕は……生きていても、何も感じないんだ。マリア……」

 不思議と涙は出てこなかった。すべて何も感じない。僕は壊れてしまったのかもしれない。


 騒ぎを聞きつけてやって来たサム先生が、王宮に急ぎ連絡を取ったのか、やって来た近衛隊によってマリアは丁重に王宮の神殿に安置された。

 美しい薔薇の花に囲まれて、その中で眠るマリアはまさに女神のようだった。僕と白猫はそばを離れることが出来ず、ずっとこの場所で過ごしている。陛下と王妃も様子を見に来るが、いっこうに離れることが出来ない僕の気持ちをわかって好きにさせてくれている。

 

 ふと気がつくと、隣に魔術師のルルーシェが立っていた。明日までは、誰も入れるなと警備兵に伝えてあったはずだか、こいつには厳重な警備も関係なかったのか……まあ、いい。

「情けないな、王太子。まんまと陰謀に巻き込まれ、マリアローズを失うとは、あり得ない。ララ、お前がついていながら、みすみすこの様か?」

「……陰謀?」

「おかしいと思わないのか?ドラゴンの卵を盗んだ盗賊が、何故あんな場所にいたんだ?いくらドラゴンに気を取られているからって、お前が普通の盗賊に背後から一突きでやられるのか?あれはどうみても、凄腕の刺客だろ。それにお前は、あの場所に一般人としていたのだろう?何故お前を刺したんだ、卵を持っていたのはマリアなのだから狙うならそっちだろ」

「何が言いたい?まさか僕が誰かに狙われているのか⁈誰だ?」

「そうだな、最近何かお前の周りで変化があったのではないか?王太子の立場は盤石か?」

「……まさか、弟の婚約を言っているのか?確かに最近アレクがデデン公爵家のミーリア嬢と婚約したが、それで僕の王太子の立場は揺るがないぞ。アレクだってそんな事思ってないだろう」

「まあ、お前の弟はそうだろうな」

「まさかデデン公爵が?」

「あのデデンは曲者だ。ユリゲーラにもいろいろ働きかけ、アレクシスこそが王太子に相応しいとふれ回っている。ブラッドフォードがそれを気にして、自分に様子を見てきて欲しいと言うから来てみれば……野心家の公爵は、グラン伯爵の娘より、自分の娘こそが将来王妃になるべきだと言っていたらしい」

「……そんな、ドラゴンの卵まで奪って、住民が犠牲になるところだったんだぞ」

「デデンは平民を人だとは思ってないのだろう。出来のいい王太子が邪魔だったんだろう。手段は選ばないさ。その隙をつかれたんだろ」

『……』

「ララはどうするんだ?もうマリアはいない。戻ってこないか?」

『……まだにゃ。それじゃあ、マリアは喜ばないのにゃ。アロイスはまだ狙われる可能性があるのにゃ』

「だが、加護のペンダントは戻ってきている。気になるのは、ルールの加護が無効になっていたことだが……まさか、神の干渉があったのか……?」

「デデン公爵が、ドラゴンの卵の存在を知っていたのも気になる……それに、あのドラゴンが簡単に卵を盗賊ごときに盗まれるだろうか?」

『……おかしいのにゃ、絶対に神がかかわっているのにゃ。一番怪しいのは、死神のランドールなのにゃ。タイミングが良すぎたのにゃ。マリアがあんな状態のアロイスを助けるのはわかっていたのにゃ。それにあの石はランドールが渡していったものにゃ』

「そうか、あの時の石か、見せてくれ」

『これにゃ、死ぬ運命の者がいると黒くなるのにゃ』

「ほう、面白い。これはそんなものではない。多分、ランドールの意志で黒くなるようにいくつか魔法が付与されている」

「それは、マリアを冥界に連れていきたいからか……」

「死神は人を誑かすのも得意だ。デデンはランドールがそそのかしたのかもしれないな。まあ、もともと野心はあったのだろうがここまで大胆なことはしないだろう」

「ランドールの目的はなんだ?マリアを冥界に連れて行って何をしたいんだ?」

「そこまではわからんが、目的があって攫ったのなら、達成されたら戻る可能性もあるな。とりあえず、マリアローズが生き返ってもいいように、体は保存しておこう」

「マリアが、生き返る可能性が……」

『……泣くのはまだ早いにゃ』

 ララに言われて初めて自分が泣いていることに気づいた。ララも泣いている。

「そうだな、ではマリアを信じて僕は僕の出来る事をしよう」


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