第105話 冥王様の困りごと
[ただいま戻りました。主、まだ出て来てくれてなかったんですね]
ランドールについて行くと、長い黒い髪と漆黒の瞳をした、美しい男性がいた。ランドールとは違い、優しそうな美男子だ。手には、あの魂の入った卵を抱えている。
「おかえり、ランドール。そうなのだ、まったく出てくる気配がない。このままではリリアが弱って消えてしまう。なんとかならないか?」
[そうですね、私には無理ですが、ここに偶然愛し子がいるのですが……]
ランドールは、私を男性の前に差し出した。
「女神の愛し子、マリアローズか?どうしてここにいる」
[約束を破って、アロイスを助けたのですよ。代わりに自分が死んでもいいと、奇跡の御業で命の理を覆したのです]
「そうか、それは残念だが仕方ないな。それで、どうするのだ?」
[もし、マリアローズが卵から魂を出すことが出来たら、どうされますか?]
「どう、とは?」
[例えば、もう一度だけ、チャンスを与えるとか、でしょうか?]
「あ、あの、ランドール、この方は誰なの?」
[ああ、そうか、この方は私の上司、冥王様だよ]
「え、冥王様……」
「ああ、女神の愛し子、よくぞ冥界へ来られました。私がこの冥界を統べる冥王です」
「は、はじめまして、マリアローズと申します。あの、それで、チャンスとは?」
[ここにいる冥王様は、魂を卵の外に出したいのに、肝心の魂がそれを拒むのか、君たちから卵を貰って以来ずっとこの調子なのさ。ほとほと困り果てていて、藁にも縋る思いってわけだね。だから、もし君が魂を取り出すことが出来たら、君をもう一度生き返らせることも可能かもしれないと思ってね。どうでしょう、冥王様]
「うむ、こちらも時間がない。もし出来たら、今回のことは目をつぶって、もう一度生き返ることも許そう。ただし、3日だ」
「3日ですか?」
「そうだ、3日経てば君の魂が冥界に馴染む、そうなれば生き返るのは難しい。どのみち3日経てば君の体は埋葬されるだろう。そうなれば、仮に生き返っても土の中だ」
「あ……」
この世界では、人が死ぬと3日間神殿に安置して、死者を弔う。そののち、速やかに土葬される。3日以上埋葬しないと、悪い魔に取り込まれると言われ、みな、3日経てば埋められるのだ。
「そうですね、土の中は嫌ですね……」
[では、マリアローズ、健闘を祈るよ]