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第102話 いよいよ学園後期です

 夏休暇の後半は、アロ様が約束通りグラン領へ連れて行ってくれた。王妃教育も一段落して、ゆっくり過ごすことが出来て大満足だ。

「マリア、次会うのは卒業後の舞踏会かな。体に気をつけてな」

「はい、父様、母様、それまでお元気で」


 あっという間に夏休暇は過ぎていき、今日から後期が始まる。

 シャルくんが帰国したので、少し寂しい後期だ。そう思うのは我儘な気がして、そっとその気持ちに蓋をした。

「マリア、どうかした?」

「いえ、冬が来たら卒業なのだと思うと、あっという間だったと思ってしまって」

「そうだな、いろいろあったけど、今思えば早かったね。あと少しだけど、学生生活を楽しもう」

「はい、そうですね」

「それから、少し執務に余裕が出てきたから、控えていた聖女マリアの活動にもついて行けそうだ。またサム先生のところにも顔をだせそうだよ、どうする?」

「行きたいです。夏休暇の間行けなかったので、気になっていました」

「じゃあ、予定を調整するように、チャールズに言っておくよ」

「ありがとうございます。アロ様」


 残りの時間、悔いの残らないように学園生活も、聖女マリアの活動も頑張っていきたい。乙女ゲーム[聖なる薔薇と5カ国物語]とは、全く違うストーリーを生きている、だからきっと、断罪崖落ち防止計画を進めなくても大丈夫なのかもしれない。

 でも最近は断罪されないためではなく、自分自身がそうしたいからしているような気がする。聖女マリアとして、苦しむ人を癒すのは、義務ではなくて、私がしたいことなのだ。

 

「お嬢様、お帰りなさいませ。今日は、結婚衣装のデザイナーが打ち合わせにきていますので、制服を着替えたら応接室の方にと、殿下から伝言が来ています」

「ありがとうマーサ、では急いで着替えるわ」

 最近は、結婚式の準備が本格的に始まった。招待客のリストを王妃様と検討したり、衣装の打ち合わせをしたりと、放課後に打ち合わせが入ることが多い。アロ様と予定を合わせるのも実は結構大変なのだ。

 王妃様も一緒に打ち合わせに参加するのだが、何度か打ち合わせをしている衣装は、私より王妃様の方が熱心にデザイナーと話し込んでいる。最終決定はアロ様がする、と言っていたので、私は差し出された図案を眺めるだけなのだ。

「マリア、お待たせ。どうだい、気に入ったデザインはあった?」

「どれも素敵なので、王妃様に選んでいただこうかと……」

「そんな、マリアの衣装は僕が選びたい」

「あら、母の楽しみを奪うのですか。なんて狭量な息子なのかしら、ねえ、マリア」

「あ、いえ……」

「母様こそ、これは僕とマリアの結婚式の衣装なのだから、遠慮してほしい」

「だって、アナリスがユリゲーラに行ってしまって、あちらの王妃が衣装を選ぶって言うのですよ。では、こちらはわたくしでいいのではなくて?」

 アナ様が留学に行ってしまって、やはり寂しいのだろう。最近は王妃様のお茶会に誘われる頻度が増したように思う。それもあって、アロ様のご機嫌が斜めなのだが……

 嫁姑問題は皆無だが、親子の間に挟まれることが多いのは、少し困っている。

「あの、仲良く一緒に選びたいです。王妃様にもアロ様にも」

「そ、そうね。まだ時間もありますし、納得したデザインを選びましょうね」

「そうだな、マリアがそう言うのなら」

 デザイナーが苦笑しているのは、見なかったことにして、打ち合わせを進めておいた。


『それで、聖女マリアの奉仕活動には、いつ頃行くのにゃ?』

「う~ん、何かと忙しくて、あれから一か月経つんだけど、なかなか予定がたたないの」

『行くときは私も行くのにゃ。ブローチのこともあるのにゃ』

「そうだね。ララがいてくれたら安心だよ」


 平穏な学園生活と、結婚式の準備も進めながら、やっとアロ様とサム先生の診療所に行けたのは、それからひと月以上経ってからだった。忙しい二人の予定が合う日が思いのほかなかったのだ。

 

 いつものように、目立たない馬車でサム先生の診療所へ向かっている。今日の服装は、神殿から支給されている聖女の服装だ。聖女として活動するならば、この服装でとジャコブ大神官様がわざわざ持ってきてくれたものだ。

「ごめんよ、マリア。こんなに予定を合わせるのが大変だと思わなかったよ」

「大丈夫です。アロ様が忙しくされながら、予定を調整してくれたこと、チャールズ様からも聞いていました。リリーには、チャールズ様が忙しくて結婚式の準備が進まないと、聞いているのですが、そちらの方が気になります」

「そうか……チャールズのところは、卒業の後すぐに結婚だったな……。わかった、少しチャールズの負担をロイドに分担させておこう。相変わらず、ローラ嬢のところに足しげく通っているみたいだし、暇なんだろう」

「あ、でもそれは、今ローラ様のところに縁談が殺到しているらしく、ロイド様も今が踏ん張りどころなのだと……」

 聖女としてのローラ様の活動は、貴族も注目しており、ぜひ我が家の嫁にと縁談の申し込みが殺到して両親が困惑している、とローラ様が言っていた。清楚で可愛らしい上に、聖女として癒しを与える姿を見てしまえば、みんなが心惹かれるのは納得だ。

 ローラ様もロイド様のことを意識しているのに、進展する気配はないのでどうしたらいいかと、この前のお茶会で相談された。あとは、ロイド様次第ではないかと思っている。

「なるほど、それならさっさと告白すればいいのに、あいつはいつも見守るばかりで、忙しくさせれば会える時間も限られて、焦るのではないか?」

「なるほど、時間が限られるのはいいかもしれませんね」

「では、帰ったらさっそくチャールズに提案しておくよ」 

 

 馬車は、ガタンと音を立てて停車した。どうやら、街の入り口に着いたようだ。ここからは少し歩く。サム先生の診療所は、狭い路地の奥にあるのだ。私が歩いていくと、聖女マリアが来たと、姿を見た人たちが怪我や病気で困っている人たちに伝えて回るようだ。今日はララも一緒に来てもらっている。赤い石はララの首輪としてリボンに通してくくりつけている。何故か、子猫のリリまでついて来てしまった。

『……マリア、気をつけるにゃ。少し嫌な感じがするにゃ』

 ララがこっそり私に囁いた。今は私に抱かれて運ばれているララが周りを見ている。

「何かあるの?私にはわからないけど」

『気のせいならいいのにゃ。ここは、人が多いのにゃ、いろいろな思いが渦巻いているのにゃ。その中に悪意が混じっているのにゃ』

「悪意?わかった、出来る限り気をつけるわ」

 私たちが到着すると、噂を聞き付けた人たちがサム先生の診療所に並んでいた。

「こんにちは、サム先生。今日はよろしくお願いいたします」

「はい、聖女マリア。今日はわざわざありがとうございます。体調を崩されたとアロに聞いていました。もう大丈夫なのですか?」

「はい、もう大丈夫です。なかなか来れなくてすみませんでした」

「いえいえ、ここまで来て下さるだけで、本当にありがたいのです。今日はよろしくお願いいたします」

 私は奥の部屋へ入って、順番に患者さんを呼んでもらう。今日は、重症な人はほとんどなく、並んでくれた人たちもすぐに癒すことが出来た。そろそろ人の流れが途切れたので、休憩しようかとアロ様と相談していると、表通りの方角から地響きと共に人々の悲鳴が聞こえてきた。アロ様と私、それに抱えられたリリとララは表通りに急いだ。

「え?」

 そこには、黒の艶やかな鱗のドラゴンがいた。まさかこの子はあの時の?!


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