第99話 竜の谷に向けて出発です
「お嬢様、グラン伯爵によろしくお伝えくださいね」
マーサたちが見送ってくれる中、馬車は軽快に走り出した。王宮を出るための理由が必要だったため、里帰りをすることにしたのだ。今回はお忍びだから、と護衛も侍女も同行しないと伝えてある。乗っていく馬車も途中の森で帰す予定だ。アロ様と私、魔術師のルルーシェ様と猫2匹が乗った馬車がゴトゴトと進んでいく。
「無事に出られてよかったです。マーサたちを騙してしまいましたが仕方ないですね」
「とりあえず出たが、はっきり言ってこの先に何があるかは予想がつかない。あと少しで森に着くが、ルルーシェが竜の谷付近へ転送してくれるのはいいとして、そこからどうする?いきなりドラゴンと遭遇する可能性もあるし、何か策はあるのか?」
「残念だが、策はない。竜の谷は、神であっても近づかない。所謂不可侵領域なのだ。その代わりにドラゴンたちも人間の住みかは侵さない。はるか昔の取り決めだが、今も守られている。たまに、愚かな人間が竜の谷を目指すようだが、ことごとく退けられ、最悪死んでいる。まあ、今からその愚かな人間になるわけだが……」
『……』
「……」
「兎に角、一刻も早くその魂を発見して、竜の谷を去ること。それしかないだろ」
そして、予定の森に着くと、馬車には引き返すようにいい、私たちはルルーシェ様の転送で竜の谷へ来た。光に包まれ、次に目を開けるとそこは先ほどの森とは違う、鬱蒼と茂る木々に覆われた谷であった。ここが、竜の谷?
「いきなり動くのも危ない。とりあえず様子を見て、どちらに行くか決めようか」
辺りには、キラキラ光る何かが見える。じっと見ているとルルーシェ様が説明してくれた。
「あれはドラゴンの鱗だ。あれを求めて人間がこの谷に来るんだ。希少な鱗は、いろいろと使えるし、高価なんだ。だから、殺されると分かっていても来るのだろう」
「なるほどな。年に数件王宮に事故の報告が来ていたが、そういう事だったのか」
「それで、ルルーシェ。魂がどこにあるのか探す方法はないのか?」
「先ほどから、気配を探しているんだが、ドラゴンの気配しかしないんだ。かなりの数がいる様だ」
その時、かすかに呼ばれている気がした。助けを求める声は、どうやら私にしか聞こえないようだ。シャルくんの時と同じ感じだ。誰かが病気か怪我で助けを求めているのかも?
「あの、あっちの方へ行ってみたいのですが、いいですか?」
さすがにここで単独行動は危ないので、とりあえず聞いてみることにした。
「どうしたんだい、マリア」
「あちらから、助けを求める声がしたのです」