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【3話】知らない男がずっと家にいる不快さは、ここで文字にして伝えても半分も伝わらないかもしれない。

<登場人物>

●ぼく(昼勤&夜勤務のお仕事してます)

●色ボケ(昼勤&夜勤の仕事。ぼくとは違う職種)※妻

●長女(大学生。人見知り)

●次女(問題の彼氏がいる。感情型)JK

●三女(生まれつき体が弱い。ママ大好き)JC

事件が起こる、約一ケ月半前……。


急に次女の彼氏という男が、ちょくちょく家に出入りするようになる。

だけど、この時点ではまだ一度も面識がなかったので、ぼくもただ「ああ、誰かが来てるのかァ」という認識だけだった。


ある日のこと──。


トイレに行こうと洗面所に入った瞬間、見知らぬ男が中から出て来てビックリする。

ぼくは一瞬、泥棒かと動揺したけれど、その男は立ち尽くして、ぼくのことを凝視している。


逃げるわけでもなく、こちらの顔を見ている。

泥棒ではないことは、すぐに理解できた。


でも……。


(じゃあ、誰?)


その時、以前チラッと耳にした妻と娘たちの会話を思い出した。


「次女の彼氏」なのでは?


咄嗟にそう考えた。

いやきっとそうに違いない。タイミング的にも──。


そう思うと、途端に緊張してくるから不思議だ。

きっと挨拶をしてくるだろう。さぁどうしよう!


ぼくにも一応は若い頃があったし「男」だ。その気持ちは痛いほど分かる。

そうだ! なるべく優しい表情を作り、出来れば笑顔でも添えて、向こうが挨拶をして来たらフレンドリーに返してあげよう、と、この時はそう思った。


”彼女の父親”なんて存在は気を遣うものだ。ましてや初対面が洗面所なのだ。向こうも罰が悪いだろうと思う。


しかし……。


その男はこちらをじっと見たままだった。

ぼくもどういう対応をしたらいいのか、正直迷ってしまった。


(どうしよう……この空気)


そうだ! こっちから先に挨拶をしよう。


と思った矢先。


そのまま、ぼくの前を素通りしてリビングに消えて行った。


ああ……あ。


一つ確実に言えることは、ぼくの方で心の準備が全く出来ていなかった。


馬鹿みたいに聞こえるかもしれないけど、娘に彼氏が出来るなんて、もっとずっと先の話だと思っていたのだ。(ぼくは時代錯誤な奴なんです)


 ◇


その男が家に来るようになり、約二週間以上が経過していた。


(事件の一か月前)


相変わらずその男は、あれ以来バイクに乗って、頻繁にぼくの家にやって来るようになっていた。夕方六時頃から~深夜一時か二時くらいまでいるので、飲み物を取りに行けない……。


妻の話では「もう片時も離れたくないんだって♪ ラブラブなの、あの二人は!」と浮かれているので、ぼくとしても「まぁ、そんなもんなのかなぁ」と思う程度だった。


(あの……。でも、挨拶は?)


「〇〇さんと、お付き合いさせていただいています」のような堅苦しい挨拶は、正直今の若い子に求めていない。そもそも結婚前提でもないし、そんな畏まって挨拶されたら逆にこちらが恐縮してしまう。


「こんにちは」


ただ、これが欲しいだけなのだ。


約半月もずっと家に来ているのだから、一回くらいは挨拶してよ。

同性の友達の家に行ったって、親がいたら「こんにちは」「お邪魔します」くらいは言うよね?


小学校の頃、何度も行き来している同性の友達の家でさえも、友達の親と顔を合わせたら必ず挨拶をしていたし、ぼくの周りもみんなそうだった。逆に挨拶しない子なんていなかった。


「今時そんなことを?」と、口うるさく感じるかもしれないが、一度も「こんにちは」もなく、深夜までリビングを独占されては、心が狭いと言われようとも、流石にあまりいい気はしない。


その後、時にはコーヒーを入れたり、時には冷蔵庫の水を取りに行ったり、と何度かリビングを通ることがあった。

いつも次女、三女、そして妻の三人で、リビングで楽しそうにゲームをしている。


もちろん、ぼくは完全に蚊帳の外だ。

まるでそこに人がいないように、静かに冷蔵庫を開けて水を取り出し、また戻っていく。誰もぼくの存在など気にも留めない。


と言っても誤解しないで欲しい。

それは彼氏が家に来ていなくても同じだ。普段からぼくは、ずっと蚊帳の外だった。家族はぼく以外全員”女”なのである。


きっとこれが、世のお父さんの現状。

「あるある」なんだろう。


しかし、心配なのは長女だ。

彼女は人見知りなので、次女の彼氏が来ている間、ずっと二階に籠りっきりになる。大学が他県にあり片道二時間の通学、往復すると四時間だ。家に帰ってきたら、ご飯を食べてただ寝るだけのような生活をしている。


なので、普段から自分の部屋ではなく、リビングでバタンキューするのが長女の日課だったので、これはかなりキツいんじゃないかなァ、と思った。

「自分の部屋に戻るのもしんどい……」とよく漏らしていた。


「今日……”来てる”から?」


ぼくが訊くと、言っている意味が分かったようで、


「へへへ……」


と疲れた顔で、同意するように苦笑いを浮かべた。


流石に父親として、その彼氏に言わないといけないな……。

しかし葛藤もある。

長女を立てれば、次女が立たない。


妻もきっと、せっかく楽しくやってたのに。

そう思うだろう。


難しい問題だ……。


ぼくは、あとから気づいて「自分は考え方の甘い人間だ」と自省することが多々ある。

この時、彼氏に言おうか、次女に言おうか、妻に言おうか、と悩んでいた。


ぼくが言ってもいいのだけれど、次女は、ただでさえ彼氏と父親ぼくをあまり会わせたくないらしいので、そこへ来て「連日深夜までは、流石にまずくない?」などと注意することに躊躇している部分もあった。


次女の彼氏を毎回ウェルカムで、家に招き入れているのは妻だ。母親としてそろそろ言ってくれるんじゃないか? という淡い期待もあったのも事実だ。


本当に、ぼくは甘々だ……。(隙だらけって、意味でね)


家に来るようになり十日過ぎる頃。

週に4日、多い時には週5日、我が家のリビングで男を見ないことがないくらい、すんなりと居候状態に突入していた。。


「下りてくんなよ」


ぼくがリビングに下りていくと、次女が不機嫌になる。

相変わらず、妻は我関せずだ。


と言っても、心配しないで欲しい。

これは普段でも時々あることだ。ただ、彼氏に父親ぼくを見られたくないのか、いつもよりは幾分口調がキツい。


お父さんはツラいよ……。


だけど、深夜まで連日、他人ぼくの家に居座っているのは、少々やりすぎなんじゃないか? 段々と強くそう思うようになっていた。



そして事件が起きる、一週間前へと突入する。


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