Mission.0 高校生活
そして、始まった高校生活。
桜舞い散る通学路、一年に一度のこのお祭りを心躍る気持ちで通り過ぎる。
薄ピンク色に染まっているこの道、この眺めに春風が一ついたずらを加える。ひらひらと舞い上がった花弁はゆらゆらと降りる先を探し、やがて俺の頭の上へと舞い降りる。
そんな春先のいたずらを楽しみながら、新たな学び舎へと期待を高める。
ここから始まる三年間で俺はやりたいことをやり遂げられるのだろうか、そんな一抹の不安も抱えながらついに校門を通り過ぎる。
校舎の玄関前では新入学生を迎え入れる歓迎の言葉とともに、クラス分けの表が貼り出されていた。
「俺のクラスは……あ、あった」
石動裕、その文字の上にはしっかりと三組と書かれている。
絶対にあることはわかっているけれど一瞬不安になるあたりは、ある意味受験の結果を見にきているかのような気分だ。
クラスの他の面々の名前を確認するが、どうやら同じクラスのなかに同じ中学の生徒の名前はなかった。
ある意味俺としては百点満点のクラス分けだったということだ。
校舎へと足を踏み入れると受験の時に感じた冷たい印象はなく、逆に人がいることによる温かみのようなものを感じ、新鮮さを覚える。
上履きへと履き替えた俺は、そのまま自身が通うことになる一年三組の教室へと足を踏み入れる。
どこか緊張した面持ちで座っている奴もいれば、浮かれた気分で話す奴、多種多様だ。
このクラスでこれから一年間過ごすことに期待を感じながら廊下側の一番前、ある意味俺にとって一番望み通りの席に座り、クラスのメンバーが集まるのを待った。
その間クラスのメンバー構成を考えつつクラスでの立ち回りをしっかりと考えておく。
今の印象では比較的、明るめな生徒も多い印象。それであればどちらかというと最初は先制パンチを食らわすくらいの勢いで挨拶しちゃっていいだろう。関心を集めるためには、……あれがいいか。
ある意味今日だからできる絶好の小ボケを一つ決める。
ようやくクラスの全員が集まる。面白いのがクラスのメンバーが全員集まり着席すると静かになってしまう。
これは場の空気を読む日本人が持つ特有のやつなのだろうか、それを見た他クラスであろう奴はまだ時間でもないけどなんだか戻らないとといったような気持ちをもって教室へと戻っていく。
緊張した様子で周囲をチラチラと伺うみんなを横目で眺めて先生がやってくるのを待つ。
沈黙で待つこと数分、数分でさえあまりに長く感じてしまうほどの謎の緊張感をようやく耐えきり先生がやってくる。
教室に入ってきたのは比較的若いほんわかとした先生で、一瞬でいかにも人気ありそうな先生だなと理解できる。
そのまま壇上へと登りクラス全体をしっかりと眺める。
「なんだか今年の新入生さんは大人しくてびっくりしちゃいました〜! 私はみんなのクラスを受け持つことになりました、澤田美保といいます! 一年間よろしくね!」
ホワホワとした口調でクラス全体に緩やかな空気を流す。
便乗するかのように俺を含め何人かの生徒はよろしくお願いします! と声をあげた。
それを見た先生は嬉しそうな表情で、
「私のことはこれからおいおいと語っていくこととして! それじゃあまずは入学式までの間にみんなの自己紹介を終わらせちゃおうか!」
そしてクラスを見回し目があった俺に一発目の挨拶を振ってくる。
「じゃあ、石動くんからお願いするかな!」
ある意味既定路線で助かった。
思い描いた通りの席がその本領を発揮した瞬間だっただろう。むしろこのためだけの席だったとも言える。どうせすぐ席替えするだろうし……。
それはおいておいて、俺は「はい!」と"緊張した様子"をみせ少しだけ硬い歩様で教壇へと向かう————。
————バンッ! と強めの音を響かせ俺の体は教壇へと叩きつけられた。
教室にいたメンバーは皆一様にえっ? などといった声や、ははっ! と笑う声をあげ俺が起き上がるのを待つ。それにもう一つかますかのように立ち上がる寸前、教卓に頭を打ち付ける。
そこでもう俺の掴みは完璧だった。クラスの空気を掴み取ったのを感じ静かに教卓に手をつき立ち上がる。
最前列にいたメンバーも何人か心配して俺のところへやってきて大丈夫? と声をかけてくれるのに大丈夫だよ! と返し教卓の前に立ち上がる。
すでに緊張がほぐれた様子のクラスメイトは、俺を期待の眼差しで見つめる。
「緊張したとかじゃないんで! あの、普通にドキドキしただけなんで!」
耐えきれなかった面々は口を揃えて「それを緊張っていうんだよ!」と声をあげた。
そしてこの瞬間こそ、クラスの無関心を一瞬で関心をへと変えた瞬間だった。
こんばんは! プロローグも本話で終わりとなります! 次回からふっと話はとんで普通に二年生の話としてスタートします! 多少困惑するかもしれないので先にご説明させていただきます笑
このまま一年生をスタートすると見せかけてあくまでここまでが二年生になった裕を想像させるためのスタート地点となりますので次回からの本編をお楽しみください!