Mission.0 プロローグ
ありふれた言葉なのかもしれない。だけどその言葉に一つの真理みたいなものは確かに存在するのではないかと俺は思っている。
"好きの反対は嫌いじゃない。ただの無関心"だって。
でも俺はその言葉にも一つだけ疑問を覚えた。
無関心が反対なのであれば、関心を持った時、それはつまり好きたりえるということなのではないか? と。
だから俺、石動裕はその疑問を自分の高校生活を持って解決に導いて行こうと思った。
強烈な好きも、強烈な嫌いも、ある意味ではお互いのことを認知する上で重要な要素であると思ってしまう。
陽キャも陰キャもある意味では同じように光り輝いているのだと。
例えばの話をしよう。クラスでめちゃくちゃ不潔な人がいたとする。
そいつは十中八九クラスの中でも嫌われているのかもしれないし、ましてやクラスの中でもリーダー格のような女子にとっても敵として捉えられてしまうだろう。おしゃれな女子にとって不潔という要素は相容れない存在とも言えるからな。
ただ、じゃあその男子が強烈なイメチェンをして、まるで誰かもわからないくらいかっこよく、もしくはそれまでの強烈な個性を打ち消すことができた時、その印象はどう変化するだろうか。
多分だが、少なからずこれまでの悪い印象は薄れ、どちらかというと注目の的になるんじゃないだろうか。
つまりここに、強烈な嫌いの逆転現象が起こったのだと思う。
逆もまた然りで、強烈に人気のあり、周りの誰もが羨む高嶺の花が、実はお風呂にも入らない人間だったと認知された時、周りの見る目が一気に変わってしまうのだと思う。
これもまた一種の逆転現象だ。
そう、つまり好きも嫌いも、その両者が極端だからこそこの逆転が起こる。
それなら話は早い、人というものの印象に残らないのであれば残るよう意識してみればいいのだ。
それを俺は、高校生活が始まった段階で自分自身を被験体にして実験を行ってみることとした。
流石にいきなり高校生活始まったばかりで友達を被験体にするようなことをするのはそいつにとっても台無しとなる可能性があるから、まずは自分でと試みた。
ミッション、クラスの中でもある程度目立つ、けど比較的に目立つ目立たないどちらの人ともある程度の仲を築けるようにする。
それが俺自身に課した最初のミッション。ちなみにこれは高校に入る前の中学生の段階でのミッションだ。そのため、俺は俺自身のその実験のために同級生が比較的行かない高校選びから始めた。
同級生があまり行かない。ただ、いないわけでもなく毎年少なからずいく人はいる。この状況設定が俺が高校での舞台設定で特に意識したものだった。
大多数の人間が俺自身を知っている環境ではない。ただ変化した俺をみたときにその変化を気づける人間がいるという要素が重要だった。
ともあれ、混迷を極めていた高校選びはそういった軸で設定され、なんとか高校へと進学することができた。
あぶね〜勉強しておいて本当に良かった……。
思い立ったが吉日という言葉があるが、思い立ってからいざ行動に移したとき、それに伴う自分の能力値よりも高いものを得るというは少々難しいのが現実ってものだ。
急に異能力に目覚める世界線でもなければ、異世界に転生してしまう世界線でもない。後者に関しては死んだことがないのであくまで転生は勝手な判断だけど……。
ともあれ俺が選んだ高校は、自分が住んでいる地域よりも離れた地域で実家から通いにくくなることもありあまり選ぶ人が少ない高校で、なおかつ難易度の面でも結構高い高校だった。その狭き門をくぐり抜けなんとか入学までこぎつけた。
入学までの間俺自身が思い描く理想にどれだけ近づけるのか、それをしっかりと練り上げることに注視し残りの学生生活を送る。
卒業式も俺にとっては新たな生活へと送り出す出発の合図のように感じた。だからそこまで深く悲しいという思いを感じなかったが、それでも三年間やり遂げた陸上部の面々に送り出されるときは流石に涙の一つも流れたもんだ。
ありがとう後輩たち、そしてありがとう先生方、これまでよりも距離は離れてしまうが皆に恥じないような高校生活を送ってみせるよ。
そして、一ヶ月が経った。
新しい制服に身を通し、なんだか今までと違う環境で目を覚ます。それがこれまでの生活と目に見えて違うものだった。
まだ少しだけ袖の余った制服は僕の心身の成長の余地を感じさせ、新たな住環境はこれからの生活の期待を感じさせる。
さあまずは、俺を被験体とした第一フェーズを始めてみようじゃないか。
こんばんは、音の葉奏です。
新作の発表ですが、本作のテーマはプロデュースといったかたちで主人公自身がメインでもあるのですが、主人公とヒロインが同時に目立つ作品でもあるのかなと思います。
主人公とヒロインが葛藤しながらも成長し、恋していく様をどうぞ楽しんでいただけたらと思います。