表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/7

2 達人は即行動


翌日に、早速モニカは行動を起こす。


次にローレンス学園で起こるイベントは、モニカが噴水でクラリッサに突き落とされるというもの。

本来のストーリーならば、保健室に二人でいたのを目撃したクラリッサが、ベニートとモニカが怪しい仲だと勘違いする。

そして嫉妬に燃えるクラリッサがヒロインに詰め寄り、噴水に突き落とす。

・・・という筋書きなのだが、クラリッサがおおらかな性格過ぎて嫉妬どころか、全く気にもかけないのだ。


このままではまずい。

モニカは焦っていた。


何故なら、これはトマス王子を虜にするには重要なイベントの一つなのだ。


先ず水浸しになったモニカを噴水から助け出す役目はベニート。

そして、寒さに震えるモニカに、自分のジャケットを掛けてくれるのがトマス第二王子なのだ。


この王子のジャケットがないと、それを洗って返すイベントも、それに続くストーリーも違ってくる。


モニカはトマスのジャケット欲しさに、元のシナリオをぶっとばして、無理矢理にでもクラリッサを悪者に仕立て上げる作戦に出た。


「ふふふ、噴水のすぐ側でクラリッサがいるわぁ。ストーリー通りね」


モニカは噴水とクラリッサの間を歩く。そして、通り過ぎると見せかけて、自ら噴水にダイブした。


「きゃーああ!!」

ザバーン!!


一番驚いたのはクラリッサだ。


「わー!! 大丈夫?」

慌てて噴水に落っこちたモニカに手を差し出すが、モニカは一向に手を伸ばさない。

しかも、水の中に座り込んだままなのだ。


丁度その時、ジルベルダとトマス王子とベニートが別々の方向から噴水の方に歩いて来ていた。


噴水の中のモニカを一番に見つけたのは、ベニートだ。


「何をやってるんだ!!」

ベニートはクラリッサを睨みながら、噴水の中のモニカを自ら水の中に入り救いだす。


震えるモニカをベンチに座らせると、怒りの声で無実のクラリッサを問い詰めた。


「クラリッサ!! モニカに何をしたんだ!!」


「え・・? 私は何もしてないわ。この子が勝手に噴水に飛び込んだのよ!!」

理不尽な言いがかりに、クラリッサの語尾も強めになる。


「・・・私が噴水に飛び込むなんてぇ・・・どうしてそんな酷い嘘をつくのぉ?」

モニカがポロポロと涙を流す。


「ああ・・可哀想なモニカ・・。大丈夫かい?」

ベニートがハンカチでモニカの涙を拭う。


「本当に私は噴水にこの女を落としてない!!」

イライラしたクラリッサが、大声で怒鳴った。

その声でモニカがビクっと体を強張らす。


モニカはこの場面を何度もスチルで見ている。

どのタイミングで体を震わすのが効果的なのか、など頭に全て叩き込まれていた。


モニカの完璧な演技プランに騙されるベニート。

彼は古くからの婚約者よりも、目の前の弱々しい女の言葉を真実だと思い込む。


「なんて、酷い女だ!!」

クラリッサの態度に、ベニートが握りこぶしを作った。


その時、トマス王子が二人を割って入る。

「止めないか!!」

そして、震えるモニカに自身の服を脱いで掛けてやる。

さらに振り返って、激怒しているクラリッサにも優しい声を掛けた。


「私はクラリッサがまっすぐな性格で、人を突き落とすような人ではないと知っている。・・・クラリッサ、ベニートに強く詰め寄られて怖かったね。後でベニートはちゃんと叱っておくので、彼を許してやってはくれないか?」


婚約者に疑われ、憤っていたクラリッサは、美しいトマスに優しい言葉を掛けられて、落ち着きを取り戻す。


「ベニート、すまないが水に濡れた女性徒を保健室まで運んでやってくれ」


ベニートは何か言いたそうだったが、王子には逆らえずそのままモニカを連れて行った。

その際、女性徒と二人きりになるとクラリッサも気になるだろうからと、ジルベルダもモニカに付き添うように指示をだす。


これでこの一件は終わったように見えたが、そうではなかった。



モニカは念願のトマス王子のジャケットを手に入れて、次の王子ルートの道が開けたのだ。



悔しさに震えるクラリッサを、トマス王子は、いつまでも優しく慰めたが、彼女の怒り簡単に収まらない。


そして、クラリッサはベニートとモニカに対して憎しみが生まれた。

クラリッサの爽やかなエメラルドグリーンの心に、一滴の混ざらない黒い汁が落ちた。

それは浮かぶことなくゆっくりと底に溜まって行く。





公爵家の屋敷に帰ってきたジルベルダは、昨日の入学式と、今日起こった出来事を思い返していた。


前世で妹がしていたゲーム。それがこの学園の事ならば、妹がプレイヤーとして動かしていたのは・・・ピンクの髪だったような気がする。


つまり・・モニカ様がヒロイン?

「いやいや、それはないわ」


ヒロインの名前は好きな名前をつけられるから、妹は自分の名前にしてたし・・参考にならないわよね。

「それに、あんな子がヒロインって無いわね。あの子は寧ろ・・・悪役みたいじゃない」

つい、怒りが声に出してしまった。


うろ覚えだがヒロインの髪の毛はピンクだったようなきがしてならない。


しかし、ジルベルダはモニカがヒロインと認めたく無い。

そのために自分が考えるヒロイン像を思い浮かべた。



ゲームのヒロインだもの。

きっと性格が良くて、人の嫌がるような仕事を、目立たないところでこっそりしているはず。

例えば、朝早く学園に来て教室のお花のお水を変えているとか・・。


ジルベルダはそう思ったが、実際のヒロイン(モニカ)の登校時刻は遅刻ギリギリだ。



もしかしたら、片想いの彼の様子をじっと物陰から見ながら、告白できずにラブレターを握りしめ悩んでいるのかも?


ジルベルダは惜しかった。ヒロインは物陰からストーカーのように観察はしている。しかし、悩んではいない。ヒロインは次の悪巧みを計画中だった。



ヒロインは浮気なんてもっての他で、一人の男子生徒を一途に想い続けているのよね。


ジルベルダは・・・。

ヒロインが五股男と同じ思考をしているとは、知らなかった。




ああ、もっと肝心な事を思い出したい。

そうだわ!!


悪役令嬢っていたはずよね。

可憐なヒロインに数々の妨害を加える人かいるのね?


乙女ゲームをしたことのない百瀬鈴子にとって、覚えているのは会社から持ち帰った仕事をしながら、妹がその後ろで言っていた独り言だけが頼りだ。


『悪役令嬢の赤い瞳が光って怖いー!!』


断片的に思い出した妹の言葉。


赤い瞳・・・。

鏡台に座って、じっと瞳を見る。


私の瞳って、赤茶色だと思っていたけれど、見ようによっては赤く見えるわ。


うーんと考え、青い髪を紐で結んで瞳の色をよく見えるようにする。

まさか・・・私が悪役令嬢?

いやいや、それはないわ。だって悪い事なんてしてないもの

それに、この見た目なら『モブ』ってところかしら?


「あら? お嬢様、髪の毛を紐で強く結ぶと傷めますわ」

侍女のダフネが、結んだ紐を外して、綺麗に結わえ直す。


「ありがとう。ダフネ」


侍女のダフネはジルベルダより四歳年上の二十歳。

姉妹のように育ってきたジルベルダにとって、ダフネは誰よりも頼りになる存在である。


「お嬢様、昨日から元気がございませんが、どうされました?」


ダフネの優しい手で、背中を撫でられると、素直に昨日からの出来事を話した。


「モニカ様の嘘が一番悪いわ。でも、婚約者の言葉を一切聞かないベニート様の態度もどうかと思うの。あの様子では、二人は婚約破棄になる可能性もあるのかしら?」


「そうですね。王族以外は重婚は認められていないので、ベニート様がモニカ様を選ばれた場合、クラリッサ様とは婚約は破棄されるでしょう」


ジルベルダはモニカが狙っているのが、トマスだった場合を考えた。


「もし・・・もしトマス殿下が男爵の娘を選ばれた場合、王家だから世継ぎの事もあるし、重婚もあり得るのよね?」


ジルベルダは前世の五股男を思い出し、ゾッとした。


「あのね、ダフネ。私・・絶対に重婚は嫌なの。でも王家に嫁ぐからにはそれは我が儘なのよね」


ジルベルダの言うことに、ダフネは女性としてその気持ちが痛い程よく分かる。

しかし、王家の婚姻に侍女が口出しできるわけもなく、ダフネに出来る事は、ジルベルダが元気になれるように、心を込めて美味しい紅茶を淹れることだけだった。




このコルト王国では必ず二人の王子が必要なのだ。

一人は表向きの政務をし、国王となる。

もう一人は結婚後、離宮の聖堂で一日数時間の祈りを捧げ、国の浄化を担う聖王となるのだ。


しかし、コルト王家は昔から子供が生まれにくいため、重婚が認められている。

一人の男性の愛を誰かと分かち合うなんて・・・。

ジルベルダは、再び気が重くなった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ