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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

常識の箱、狂気の箱

作者: 昼咲月見草

体が動かなくて横になっていた。


ゴミ出しは8時までだ。

幸い、先週ゴミ捨てを済ませているので、今日は無理をしなくてもいい。


どうしたわけかとにかく体が動かない。

どこかが痛いわけではない。

体が弱っているわけでもない。

体力がなくて疲れているわけでもない。

気力が湧かない、というのとも少し違う。



うとうとしているうちに眠っていたらしい。

まだまだ眠り足りない気分だが、洗濯をしなければ。

だが体は動いてくれそうにない。


一体これはなんだろう。


何かが足りないのなら満たしてほしい、と天に祈る思いで空高くの光を思い浮かべた。

光に癒されるイメージ。

いつもならそれで少しは気持ちが楽になる。

まだ頑張れる、と自分を奮い立たせる事ができる。



だが今日は違った。



イメージの光とわたしの間に()()はいた。



巨大な赤ん坊。


頭の部分が真っ黒で、覗き込むように、かがみ込むようにわたしを見下ろしている。

怖いとか、嫌だとか、そんなことは感じられない。

それはただそこにいる。

そこにいるだけでわたしを食い尽くす。


『連れて行って』

『それを、いるべき場所へ』


ふいに頭に言葉が浮かんだ。


()()のイメージは消えた。


どうなったのか分からない。

普段のわたしなら「ぶっ殺す」一択だ。

だがそうでなかったという事は、きっとわたしではどうにもならない相手だったのだろう。



体を起こせるようになって、フラフラになりながら水を求めてキッチンへ。

なくなっていたのは、足りなかったのは生命力だと気がついた。


あれはわたしを殺す気だったのだろうか。

不快感も、恐怖感も、反射的に感じるはずの怒りも何も感じなかったのに。



わたしには霊など分からない。

見えないし、聞こえない。

けれど、それをいい事にヤツらはわたしを嬲りものにする。


もしもわたしにヤツらが見えていて、戦う力があれば必ず殺す。

1匹残らず、情けなどかけず、目につく限り必ず殺す。

呪いなどもそうだ。

全て破壊し尽くして術者を殺す。


そんなだからわたしにその力がないのだろう。

とても残念な事だ。


世界はこんなに悪意に満ちているというのに。

武器も防具もなく放り出された者は、あるかどうかも分からない救いにすがり、非科学的な感覚を捨てられない自分を社会から隠して怯え続ける。


何が現実なのか、非現実的とはなんなのか。


この体の痛みは、苦しみは、全て一緒のものではないのか。


それとも、この世界でわたしはすでに狂っているのだろうか。


狂気の中で見たのだとすれば、あの幻の子どもの黒い頭は存在していないのだろうか。

であるならば、わたしもあの黒い頭の子どもも、決して救われる事がない。

それは狂気の産物であるがゆえに。



インスタントのコーヒーにミルクを入れ、音楽をかけた。

お気に入りの曲。

洗濯機の回る音。

外は雨。


少しずつ生活が動き出す。


悪意などどこにもないような顔で。


けれどわたしは知っている。

この穏やかな何もない日常の底に、悪意が織り込まれて姿を隠している事を。

そしてそれは、常識という形をした箱に納められているのだ。










エッセイという事はできず、ホラーとする事もできず。


大きいつづらはどっち。

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