表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

Interlude 上条ネネとハルの会話

 

 えっと、そうね。まずは何から話そうかしら。長くなるけど、いい?

 ……うん。そう、あの男の子が待ってるのね。だったらなるべく簡潔に話すわ。それでいい?

 え?五分以下?フフ分かったわ。あなたも強情ね。いいわ、そうしてあげる。……男を好きな女は嫌いじゃないもの。

 

 ……あの人と初めて出会ったのは新入社員の歓迎パーティーだったわ。

 見た目は悪かったけど、話してみるととってもいい人で、その日から私たちは付き合うことになったの。

 早い?そうかもね。でも、両想いの男女なんてそんなものじゃない?あなた達がどうかは知らないけれど、いっそ告白しちゃえば?案外すんなりいくかもしれないわよ。

 ……そんな怖い顔しないで。少しからかったのよ。


 話を戻すわ。それでね、そこから私と彼はとっても幸せだったわ。きっと見た目が悪い同士だったから、他人からは幸多そうには見えなかったでしょうけれど、それでも私達は幸せだった。

 ご飯を食べに行ったり、映画を見たり、海で泳いだり、平凡な幸せだったけれどとても順風満帆な日々を過ごしたわ。

 けど、そんな日々を一年くらい過ごした当たりかしらね……私達のそんな生活に転機が訪れたの。

 どういう転機?そうね、あなたはもうわかってるんじゃない?彼にとっては悪い転機で、私にとっては良い転機よ。


 ……彼の見た目がね、会社内で悪く言われ始めたの。ううん、オブラートに包んじゃ駄目ね。要するに見た目を理由に彼が会社内で虐められ始めたのよ。

 幸にも彼と私が付き合っていることは社内で秘密にしていたから直接的に私に被害が及ぶことはなかったんだけど、彼がもともと暗い性格だったこともあって、いじめは日に日にエスカレートしていったわ。

 ……それはもう酷いもので、同居している彼が家に帰ってくるたび、彼は蒼白な顔で死にたいってぼやき続ける程だった。

 

 でも、それでも私は幸せだった。

 愛する彼を一番近くで慰められたし、何より、私の言葉で元気になってくれる彼がとても愛おしく見えた。

 その時はもちろん、彼に「私は幸せよ」だなんて言わなかったけれど、事実、私はその時、今までで一番幸せだったの。

 私はいじめられている彼に甘い言葉をかけてあげることで、私自身を甘やかしていたんだわ。

 あら顔色が悪いわね?もしかして、あなたたちもそうなのかしら?


 けど、そんな私の幸せも突如として終わりを告げることになる。

 ええ、そうよ。ここまでくればあなたも分かると思うけれど、そう、第二の転機。

 私にとっては最悪で、彼にとっては最高の転機だったわ。

 ……彼は、彼を必死に慰める私に申し訳なく思ったのか、私に何も告げず顔を整形した。

 それも、とびっきりのイケメンにね。

 ねぇ、その時の私の気持ちをあなたは想像できる?いいえ、して頂戴!

 それまで彼を助けていた存在だったこの私に、助けることで自分を保っていたこの私に、彼はこう言ったのよ!

「今まで心配かけてごめんね。これからは君に絶対恥ずかしい思いはさせないから」

 私はその時、まさに心臓を握り潰されたような、筋繊維を一本一本はがされる拷問にあっているかのような、そんな気分だったわ。

 恥ずかしい?私が今まで助けていた彼が恥ずかしい?助けていた私が、恥ずかしい?

 

 そこからは最悪の連続だったわ。

 彼は見た目が良くなって自信が出たのか、根暗だった性格も急に明るくなった。

 それに応じて業績も鳥みたいに飛躍した。

 見る見る社交的になって社内での人気も急上昇した。

 そして、最も最悪だったのは……彼がそれでも私を愛していたということ。

 ねぇ、考えてもみて。

 それまで助ける対象だった人間が逆に私を助けるまでに成長した。しかもそれは、それでも私を愛するという。

 それはもう考えたくもないほどだった。そんなのはもう暴力よ。家の庭にいるアリを一匹捕まえて、助けるという名目で家のケースで飼い、慣れ親しんだ外の世界から隔離する。そんなあまりにも残酷な所業よ!


 だから、私はさっき彼を振ったの。

 きっと、今は家に帰って泣き喚いてくれている頃でしょうね。 

 ウェディング体験というある意味確信めいた場所で彼を切り捨てる。……いい気味だったわ。


 ……ねぇ、あなた。愛する二人が永遠に一緒に居続けるためには何が必要だと思う?

 愛?それもあるかもね。

 でもね、それはきっと、愛だけじゃダメなのよ。

 現に私がそうだった。

 私はいまでも彼が好き。でも、彼とはもう一緒に居たくない。

 きっとそれは憎しみとか侮蔑とか哀れみとかなんだわ。

 適度に嫌って、適度に見下して、適度に哀れんで、きっとそうやって愛する者は一緒に居られるのよ。


 ……ねぇ。同居先の家はもう出払ってるから私は彼に会うことはないんだけど、もし彼に会うことがあったら伝えてくれない?


 ……ええ、会ったらでいいわ。そんなに伝えたいことでもないし。でも、よく覚えておいてね。一回しか言わないから。

 今から言うことを伝えて頂戴。


「あなたにはもっと矮小な存在でいて欲しかった」


御一読ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ