プロローグ
「ねぇ、こんな生活いつまで続くのかな?」
ネットカフェの狭い一室。パソコンの機械的な明かりだけが薄らぼんやりと光るだけの室内。ソファに寝そべったハルが小さい声で聞いてきた。
「分からない。今終わるかもしれないし、明日終わるかもしれない。だけど、もしかしたら一生このままかもしれない。僕には分からないさ」
僕は雑魚寝しているカーペットの上で身をよじらせながら答える。ハルはその答えがおかしかったのか、フッと笑った。
「何それ。答えになってないじゃない」
ごそごそと動く音が聞こえる。上を見ると、天井に手を伸ばすハルの手の影が見えた。ハルは続ける。
「まあ、でも、そうかもね……。私達の関係なんて、きっとそんな風にあやふやなものなんだろうね。一つ分かるのは……昔よりはまだマシってことだけかな」
視界からハルの掌の影が消えた。代わりにだらんとソファの端からぶら下がったハルの手が覗く。その白く傷一つない五指に僕は自分の大きな指を絡めた。僕は言う。
「そういうこと。きっと僕らはそれだけ理解してればいいんだ。他のことは考えなくていい。考えたらきっと、駄目なんだ」
そう言うと、ハルは僕の手を無言でぎゅっと握ってきた。突然握ってきたので驚く。けれど、それが何を意味しているのか、僕には全く理解できなかった。
「もう寝ようハル。明日のバイトも早い。万が一遅刻でもしたら明日は公園で過ごすことになっちゃう」
「うん、分かった。それじゃあおやすみ、フユ」
「うん、おやすみ。ハル」
そうして、僕たちは手を握ったまま目を閉じた。
御一読ありがとうございました。