ターコライズ王国国王、錯乱
◆
「さすが、バトルギルドの誇るミスリルプレートですねぇー。とてもお強いですー」
「当然だ。実力だけなら、この国であいつらの右に出る者は数人しかいないからな」
テイマーギルド、ギルドマスター室にて。
トワとレオンは、スフィアが映し出していた映像を見ていた。
「ロウンもまだ本気ではないが、あの程度の相手ならこんなものだろう」
「バトルギルドは層が厚いですねー」
「コハクがバトルギルドに入れば、さらに磐石なものになるがな」
「ふふふー。冗談は身長だけにしてくださいなぁー」
ピリッ。
部屋の空気がピリ付き、無言の圧力が部屋中に広がる。
一触即発の空気の中──不意に、2人の前にある映像が浮かび上がった。
『トワさん、レオンさん。お疲れ様です』
「コハクさんー。お疲れ様ですー」
「ご苦労様、コハク。君を狙う刺客は、ほぼ全員捕らえたよ」
『はい。こっちでも確認しました』
コハクは安堵の表情を浮かべ、直ぐに顔を引きしめた。
『これから、ターコライズ王国のハンター達はどうするつもりですか?』
「安心しな、コハク。誰も悪いようにはしないさ。ただ……ターコライズ王国の国王との話し合いの際に、人質になってもらうけど」
レオンの目が怪しく光り、凶暴な笑みを浮かべる。
それもそうだ。今回のことを、お咎めもなく済ませるつもりは毛頭ない。
他国のハンターが、自国に潜伏し1人の国民を攫おうとした。
これはれっきとした事件だ。
「女王陛下もー、この件についてはご立腹ですからねぇー。下手をすれば、他国を巻き込んだ大戦争に発展しかねませんからー」
『……わかりました。それじゃあ俺も、1度そちらに戻ります』
「わかりましたー」
コハクとの映像が途切れる。
その時、ふとある疑問が湧いた。
「そういえば、剣聖様はどちらにー?」
「ああ。アシュアは女王陛下の遣いに選ばれた。コルの身体強化魔法と、《剣聖の加護》を使っている。あと数日もすれば、ターコライズ王国に到着するだろうな」
「なるほどー」
トワは思った。
無事に済めばいいけど、と。
同時にレオンは思った。
無事に済むはずがない、と。
◆
それから数日後。場所はターコライズ王国、王城。
謁見の間にて、国王は白目を剥いて撃沈していた。
「……つ、捕ま……た……235人の精鋭が……次期ミスリルプレートの2人が……も、もうダメだ。もうこの国はおしまいだ……あが、あががががががっ」
「こ、国王様っ、お気を確かに……!」
痙攣し、泡を噴き出した国王。
見るも無惨な姿である。
この数ヶ月で、ターコライズ王国の国力は目を見張るほど回復していた。
あれもこれも、国王の負けん気と根性、そして外交力があってこそだ。
しかし、あまりにも理想が高すぎた。
国力が衰退する以前と比べると、まだまだ力を取り戻せていない。
過去の栄光に縋っている故に、国王は疲弊しきっていた。
と、その時。
「こ、国王っ! 一大事でございます!」
「ひいいいいいぃぃぃぃぃ!?!?!?」
突如入ってきた近衛兵長の『一大事』という言葉に、国王は涙と共に鼻水を垂れ流した。
「ば、馬鹿者! 今国王陛下は傷心の身なのだぞ!」
「も、申し訳ございませんっ。しかし、ブルムンド王国より使者が来ておりまして……!」
ピタッ。
使者という言葉に、国王の動きが止まった。
ブルムンド王国の使者。要件はまず間違いなく、例の件のことだろう。
……聞きたくない。
(聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくないワーーーーーーーーーー!!!!!!)
内心、錯乱。
しかしそこは一国の王。
内心を悟られないよう、勇ましく精悍な顔付きで玉座に座り直した。
(そ、そうだ。使者とやらを人質にすれば、まだ可能性が……!)
錯乱しすぎて良からぬことを考え出した。
「こほん。よろしい、連れてまいれ」
「はっ!」
近衛兵長が謁見の間を後にした数分後。
「ブルムンド王国使者、アシュア・クロイツ殿!」
「失礼致します」
「ようこそ参った、ブルムンド王国使者……ど、の……?」
良からぬこと考えていた思考が、停止した。
と同時に、頭が高速で回転し始めた。
(待て、アシュア・クロイツだと……? クロイツ家は確か、ブルムンド王国の誇る剣の名家。そしてアシュアという名は──)
「け、剣の申し子ッ、アシュア・クロイツ……!?」
「私を知っていてくださるなんて、光栄でございます。ですが陛下。今の私はこう名乗っております。──剣聖アシュア・クロイツと」
ターコライズ王国国王の良からぬ考えは、潰えた。
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