化け物達──④
「彼らがターコライズ王国からの刺客……その主戦力ですか」
「ああ、多分な。俺だけじゃぶっ殺しちまいそうだったから、コルが来てくれて助かったぜ」
「まあ、僕なら死ななければ回復させることくらいできますからね。もう、手を抜かなくていいですよ」
「サンキュー」
手を抜かなくていい。
それはつまり、今までの戦闘では手を抜いていたということだ。
あれだけの強さを見せておいて、まだ本気じゃなかった。
そんなロウン1人でも手に負えなかったのに、それに匹敵する化け物がもう1人。
これを絶望と言わず、なんと言えばいいのか。
周囲はコルの作り出した暴風の牢獄で逃げることはできない。
ここから逃げるには……。
「はあ……俺、あんまり命を懸けるなんてことしたくないんだけど」
「奇遇ですね。私もです」
「テメェはつえー奴と戦うために命懸けてんだろ」
「本当に懸けたことはありませんよ。……ここまで絶望的な状況に陥ったことはなかったので」
肌が焼けるような闘気を放つロウンと。
精神を削られそうな魔力を放つコル。
ここから逃げるには、2人を殺すしかない。
……命を懸けて。
「ふむ? どうやら、向こうさんは決死の覚悟のようですよ」
「わかってる。決死の覚悟を決めた相手は、力の大小関係なく厄介だ」
ロウンとコルは、バトルギルドという特殊なギルドに所属しているため、決死の覚悟で抵抗してくる相手の厄介さは重々承知している。
バトルギルドの仕事は、街や村を荒らしている魔物の討伐だけではない。
山賊や夜盗、闇の組織などの人間を相手にすることも珍しくない。
そんな人間は、本能で生きる魔物とは違い、相手の力量がわかるや否や逃げる奴だけじゃない。
なんとか生き延びようと、なんとか相手を殺そうと決死の覚悟を決めて掛かってくる奴もいる。
そんな相手は、総じていつも以上の力を出す場合が多い。
決死の覚悟。
つまり、刺し違えてでも──死んでも相手を殺す覚悟だ。
「あいつらは本気なんだ……こっちも、本気を出さなきゃ失礼ってもんだろう!」
ゴオオオオオオオォォォォォッッッッ──!!!!
ロウンの闘気が、更に一段階高まった。
近くにいるだけで死を直感するほどの膨大な圧力。
だが、サノアとドアラは引かない。否、引けない。
2人は拳と剣を構え、精神と集中力を研ぎ澄ませた。
「フッ──!!」
「ハッ──!!」
一歩間違えれば死。
そんな危険地帯へ、脚を踏み入れた。
グシャッ。
(……ぇ……?)
サノアの左側から聞こえた、聞き馴染みのある音。
人体を破壊した時に発する、肉と骨がつぶれる音が聞こえ……。
真横にいたドアラが、いつの間にかそこにいたロウンによって殴り潰されていた。
動体視力には自信があった。
戦闘において、動体視力の高さはそのまま生存へと直結するから。
相手がどれだけ速くとも、死なないために、生きるために磨いて来た動体視力だったが。
(全く、見えなかった……!?)
ロウンの動きは、それを易々と超越した。
隣にロウンがいるのに、動けない。
攻撃のチャンスはいくらでもある。それなのに、体が震えて動いてくれない。
強大すぎる力の前に、なすすべなく震える1人の子供。
それはまるで、過去にイジメていた弟みたいで——。
(あぁ、そうでしたか……コハクは毎日、このような気持ちだったのですね……)
気付いたところでもう遅い。
後悔したところでもう遅い。
逃げ切れる確証のない絶望は、もう目の前にいるのだから。
「全く……ロウン、それでは即死じゃないですか」
「1人生け捕りにできりゃ、それでいいだろ」
「ダメです。2人とも生け捕りにすることが、マスターからの依頼なのですから」
「チッ」
ロウンが肉塊からどくと、コルが何やら魔法を唱えた。
直後、ただの肉片と化していたドアラが淡く光り、まるで逆再生するかのように体が元に戻っていき。
「……はっ!? ……あ、れ……?」
息を吹き返した。
サノアは目を疑った。
どう考えても、今の攻撃でドアラは死んでいた。
これはもう回復ではない。まるで、復活だ。
「相変わらず、オメェの回復魔法はとんでもねーな」
「戦いに勝つのは、攻撃を極めたものではありません。どれだけ強い攻撃でも防げる防御力と、即死級の攻撃を受けても回復できる方法を持っているものが勝つのです」
「へいへい。攻撃力一辺倒で悪かったな」
こんな化け物達、ターコライズ王国でも聞いたことがない。
ターコライズ王国のミスリルプレートとも手合わせをしたことはあるが、彼らとこの化け物達では地力の差が大きすぎる。
それを認識した瞬間、サノアの心は折れ。
「……降参、します。……私達の、負けです」
敗北の宣言が、口からこぼれ出た。
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