化け物達──③
◆
「え、ロウンさん強すぎない?」
俺はスフィアの見せてくれている映像を見て、驚愕していた。
強いのはわかってた。
なんて言ってもミスリルプレートだし、アシュアさんとチームを組んでいるんだ。強いのは当たり前だろう。
それでも、この強さは想定外だ。
もちろんサノアは、最後に俺が見た時から数倍は強くなっている。
それに加えてドアラの剣の冴えもとんでもない。
俺自身が剣を学び始めたからかもしれないけど、ドアラの強さも異次元だ。
けど、ロウンさんはそんな2人を相手にして余裕を持って戦っている。
これが、プラチナプレートとミスリルプレートの差……俺もいつか、ああやって戦える日が来るんだろうか。
……そんな姿、想像できないけど。
『そうね。確かに想像を超える強さだわ』
『魔族戦の時は、トワ様やアシュア様、レオン様が強すぎてかすんでしまっていましたからね』
『ロウン強い! 今度あそびたい!』
『ふむ。確かに、この者の強さは世界でもトップレベルでしょうな』
どうやらみんなもそう思ってるみたい。
でも1つだけ気になることがある。
「ねえ、サノアって本気出してると思う?」
映像越しとは言え、サノアの動きが悪い気がする。
当然、実際に敵対した時は印象やスピード感は変わるだろう。
それでも、昔感じた恐怖というか、圧倒的な暴力といった感じがしない。
そんな俺の疑問に、スフィアが答えた。
『それは恐らく、ご主人様が強くなったからだと思われます』
「俺が強くなったから?」
『はい。ご主人様はこの数ヶ月、剣精霊との実戦を日に数百も積み、魔族との死闘を乗り越えています。その経験値は、並みのハンターを大きく凌駕しているのです』
「な、なるほど」
俺の実力が急速に上がっているから、サノアやドアラの動きを見てもなんとも思わないのか。
……それでも、ロウンさんの動きは化け物すぎるけど。
「今の俺なら、サノアに勝てるかな?」
『肯定。今のコハク様ならば、サノアという女に引けを取らないでしょう。更に幻獣種の魔人化があれば、必ず勝てます』
と、ライガが答えてくれた。
別におだてている訳でも、持ち上げてくれている訳でもない。
ただ純粋に、そう思ってくれているようだ。
接近戦の達人であるライガにそう言われたら……ちょっとだけ、自信が出た気がする。
自己肯定、とまではいかないけど。それでも、もう少し自分の力を信じてみよう。そう思えた。
◆
「オルァ!!」
「ぐっ……!?」
ロウンの拳を受け、サノアは空中で回転して着地。
それをチャンスと見たドアラは、死角である右側から攻撃を仕掛けた。
「フッ……!」
無数の斬撃がロウンを襲う。
が、ロウンは動かなくなった右腕の代わりに、右脚を器用に使ってドアラの攻撃を全て捌いた。
「そんなんアリか……!?」
「強くなりたければ、腕を脚のように強くするか、脚を腕のように器用に動かせるようになるべし!」
「クソが……!」
ドアラの斬撃は、鉄ならば簡単に斬ることができる。
それなのに、ロウンのレッグガードは傷ひとつ付けることができない。
それもそのはず。ロウンの装備は特別製で、鋼鉄にミスリルが混ぜられた合金だ。
巨大な魔物の踏み付けでも曲がらないし、龍種のブレスでも溶けない。
そうでもしないと、ロウンの並外れたパワーによって、自分の力で破壊してしまうからだ。
斬撃を受け、僅かな隙を見てドアラの両腕を弾く。
がら空きになった腹。ガードは間に合わない。
「しま——!?」
「ふんっ!」
ロウンの蹴りがドアラの腹部へ吸い込まれるように放たれ。
「させません!!」
間一髪間に合ったサノアのかかと落としが、ロウンの蹴りを下に逸らした。
直後、轟音と地響きと共に石畳が吹き飛び、約10メートルもの大穴が空いた。
今の一撃、食らっていたら間違いなく体が吹き飛んでいた。
けど、食らっていた時のことを考えても意味がない。
とにかく攻撃の手を休めない。それしか、生きる道はない。
サノアとドアラは、連携を駆使してロウンに襲い掛かる。
そんな2人を見て、ロウンは歓喜していた。
(ふ。まさかここまで食い下がってくるなんて、思ってもみなかったぜ。実力も、確かに次期ミスリルプレートと呼ばれるだけある)
ここから先、更に力を付けていけば、間違いなく自分と同じ領域に来るだろう。
その確信はあった。
が。
(それだけに残念だ。──こいつらは、もう逃げられねぇ)
「《テンペスト・プリズン》」
突如、3人の周囲に複数の竜巻が発生した。
まるでここから逃がさないとでも言うように、高速で3人の周りを動いている。
「やあロウン。まだ殺していないようですね?」
と、3人の頭上から、男の声が聞こえてきた。
身の丈ほどの大きな杖を持ち、まるで教祖のようなローブに身を包んでいる男が、ゆっくりとロウンの隣に降り立った。
「遅ぇぞ、コル」
「すみませんね。僕も街や人々を守ったりと忙しくて」
ロウンとにこやかに話す男、コル。
その名前を聞き、サノアとドアラは目を見開いた。
「こ、コル……て……!?」
「ええ。間違いありません。……魔術図書、コル・マジカリア」
剣聖アシュア・クロイツ。魔闘拳鬼ロウン・バレットとチームを組む、もう1人のミスリルプレート。
まごうことなき、化け物だ。
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