化け物達──①
◆
「ありがとう、スフィア。お疲れ様」
『いえ、これくらい造作もございません』
とか言いつつ、若干の疲労が見て取れる。
やっぱり目に見えない、見たこともない数百人の居場所を探知するのは、かなりのエネルギーを使ったみたいだ。
機械人形でも、疲れるものは疲れるんだね。
スフィアは、目を光らせて空中にブルムンド王国の映像を映し出す。
どこもかしこも混戦状態だけど、コルさん達が住民を守ってくれてるみたいだ。
だけど、その中でも一際派手に土煙を上げている場所がある。
その中心にいるのはロウンさん。
そして──。
「サノア……」
ロウンさんのパワーとスピードを見て、ヨダレを垂らしている。
相変わらずだな、サノアは……。
『あれがコハクのお姉さん? 似てないわね』
「うん。サノアの方が優秀で、顔もいいって言われてたから」
『そうじゃないわよ。アンタの方がいい顔してるって言ってるの』
「はは。ありがとう」
お世辞なのはわかってる。
でも、そう言ってくれると嬉しい。
肩に乗っているクレアの頭を撫でると、納得いかない顔をされた。え、何?
『コハク、アンタはもっと自信持ってもいいわよ。むしろ持ちなさい』
『そーだよ! こんな奴より、コゥの方がとってもすごいもん!』
『ご主人様は、自己肯定感を高めた方がよろしいかと』
『然り。見たところ、あの者よりコハク様の方が数段格上かと』
そ、そうかな……?
やっぱり子供の頃の恐怖というか、圧倒的な力で痛めつけられた感覚があって、とてもそうは思えないけど……。
再度、映像を見る。
ロウンさんもサノアも拳闘士。そしてもう1人の男、ドアラは剣士だ。
次期ミスリルプレートが2人……。
ロウンさん、気をつけてください──。
◆
「へぇ、今のをかわすか」
ゴキッ。肩の関節を鳴らし、拳を開く。
たったそれだけの動作で、ドアラは肝を冷やした。
(ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう! なんだこの底知れない圧は……! これが歴戦のハンターッ。本物のミスリルプレート……!)
体が震える。
本能的に足が下がる。
如何に自分達がプラチナプレートとして活躍しようと。
如何に自分達が次期ミスリルプレートと持ち上げられようと。
目の前にいる本物の前には、その他大勢の塵芥と同じ。
(逃げなきゃいけないのはわかる。けど、逃げきれないのもわかる。なら……!)
剣を構え、戦闘のギアを跳ね上げる。
隣に並ぶサノアも、今まで隠していた闘気を解放した。
それを感じ取ったロウンは、口を歪ませた。
「あの時感じた気配。やっぱりお前らだったか。いいねぇ……そそるぜッ!!」
ゴオオオオォォォォォッッッ──!!!!
2人の闘気すら吹き飛ばすほどの圧倒的な闘気が、ロウンから発せられた。
その闘気に、サノアは興奮したように叫ぶ。
「いいっ、いいですよ! その力ァ……ぶつけ合いましょう!?」
地面を蹴り、初動から一気にトップスピードでロウンに迫る。
速い。常人なら目で追うことすらできないほどだ。
ロウンの首を狙って、サノアの蹴りが放たれる。
サノアの蹴りは、小型の龍種の首なら吹き飛ばせる威力を持つ。
本来ならこの1発で勝負は着くだろう。
だが。
「いい動きだ」
相手はミスリルプレート。
ガシィッ──!
片手で、簡単に止められた。
「動きはいい。だが軽すぎる」
「ッ!?」
「サノア!」
まるでガラクタを扱うように、簡単に投げ捨てられた。
空中で回転し、バランスを取って着地。
間髪入れず、再度ロウンへと接近する。
「ハッ──!!」
ガガガガガガガガガガッッッ──!!!!
轟音と地響きを伴う無数の連打がロウンを襲う。
しかし、ロウンは涼しい顔でその全てを受けていた。
受け止め、そらし、かわし、弾き。
その衝撃波が、周囲の地面に亀裂を入れていく。
そんなサノアの攻撃を受けていると、僅かにロウンの顔が歪んだ。
「ふんっ!!」
サノアに拳を叩き込む。
その拳を受け、勢いに逆らうことなく数メートル吹っ飛ばされたサノアは、にやりと口を歪めた。
「効いていますね、私の力が。私の力の前では、あなたがミスリルプレートだろうと、化け物だろうと、関係ありません」
「…………」
受けていた腕から僅かに感じる鈍い痛み、痺れ。
まだ戦いに影響はないが、不快感の残るものだ。
「……ダメージの蓄積……いや、累積か。少しずつ魔力を流し込み、外側と内側から肉体を破壊する。そうだろう」
「さすがですね。僅かな戦闘で私の力を見破られたのは、初めてです」
累積していく魔力が、毒のように内側を破壊する。
最後は痛みと痺れにより動かせなくなり、破壊される。
故に、破砕者。
肉体を効率よく破壊するために考えられた、サノアのオリジナルの力だ。
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