行動開始──②
◆
「おやっさぁん! 酒ぇ!」
「ロウン、飲み過ぎですよ」
「バァロー! これが飲まずにいられるかってんだ!」
まだ日が高い時間、バトルギルドにて。
ロウンは今までにないほど酒に溺れていた。
その理由は単純。
アシュアとレオンの指示で、依頼に出ることは疎か1人での行動も制限されているからだ。
いわゆる、ヤケ酒である。
「うぅ、依頼してぇ。戦いてぇ……」
「それも、敵が見つかるまでの辛抱です。《フルキュア》」
コルが指を振るうと、虹色の光がロウンを包み込んだ。
「あ!? おい、コル! 何勝手にアルコール分解してんだ!」
「敵が攻めてきた時、酔い潰れてたら敵いませんからね。飲めば飲むだけ、状態異常は回復させるので」
更に指を振るう。
今度はイラついていた心が静まった。
「わーった、わーったからやめろ。ったく、酒くらい自由に飲ませろよ……」
「そうは行きません。マスター曰く、敵は他国のプラチナプレート。次期ミスリルプレート並の実力らしいです。あなたでも油断してると──負けますよ?」
事実ブルムンド王国内では、過去にミスリルプレートがプラチナプレートに負けた例がある。
それどころか、ゴールドプレートに負けたことも。
「だけどそりゃあ、ミスリルに上がりたてで驕ってたのが原因だろ。俺ァそんなミスしねーよ」
「それが驕りだと言うんです。無様に負けて、ミスリルプレートの……バトルギルドの品格を陥れたら、僕が殺します」
「へいへい。わーったよ」
適当に返事をすると、頼んでいた酒がやってきた。
「ま、こうして何度も酔えるって考えると、悪くはねぇなぁ。ガハハハハ!」
「酔わないって選択肢はないんですね」
「こんなことでもしねーと、やってらんねーからな。やることもねーし」
「依頼と戦闘以外にやることがない人生って楽しいですか?」
「ああ。俺の存在意義だからな。」
物心ついた時には1人だった。
当時からずっと喧嘩三昧。悪いこともやって来た。
一時期は盗賊の真似事なんかもしていた。
そんな時に出会ったのが、バトルギルドのギルドマスター、レオンだった。
人生で初めて負けた。
しかも、少年にしか見えない男に。
その時、レオンがロウンに手を差し伸べたのだ。
『その有り余る力、人を救うために役立てないか?』
『人を、救う……?』
『お前の力があれば、何千、何万もの人を救うことができる。来い、ロウン・バレット。俺と組もう』
今から10年以上前のことだ。
あの時の、あの言葉があったから、今ロウンはバトルギルドにいられる。
それからロウンは、戦うこと、そして依頼を受けて人々を救うことが生きがいになった。
だからこうして戦闘も依頼も禁止、行動も極力制限されると、フラストレーションが溜まって仕方ない。
「はぁ……いい加減、こっちから仕掛けてもよくねーか?」
「マスターも言っていたでしょう。正確な場所がわからないと、向こうも何をするかわからないと。今はテイマーギルドの人間も動いてくれています。見つけるまで、もう少しの辛抱ですよ」
「だりぃ……」
詳しい場所はわからないが、すっと視線は感じている。
ロウンがこうして引き付けていればテイマーギルドのハンターが見つけるまでの時間も稼げるし、コハクへの影響も少ないだろう。
それは理解している。
が、理解できても納得はできていなかった。
「見つけたらぶっ殺してやる」
「生け捕りですよ」
「があああああああああああああああ!! うぜえええええええええええ!!!!」
突然の咆哮に、ギルド内の荒くれ者達も一気に黙った。
それもそうだろう。
ロウンはミスリルプレート。しかもアシュアとコルとパーティーを組んでいる、ギルド内最強の腕力家だ。
そんな男が苛立たしげにしているのだ。
いくら荒くれ者で腕に覚えがあるとは言え、黙るのは必然だった。
ロウンはカップの酒を一気に飲み干すと、立ち上がった。
「どこに?」
「便所」
「了解です。オヤジさん、焼き魚を1つ。ロウンにつけておいてください」
「おいコラ」
「いいではないですか。こうして一緒に食事をするのも久々なんですし」
コルは含み笑いを浮かべ、水を飲んだ。
そんなコルに舌打ちをし、ロウンはトイレに入る。
直後、トイレが爆発した。
「ッ! ロウン!」
「おォ……無事だァ」
爆煙の中、ロウンのドスの利いた声が響く。
食事や酒を飲んでいたハンター達も、一気に臨戦態勢に入った。
「チッ。つまんねーマネしやがって」
「敵は?」
「いねーよ。入った瞬間爆発しやがった」
妙に冷静なロウンが、トイレだったものと周囲を見て状況を分析する。
次にコルが爆発現場に入り、目を配った。
「……魔法の痕跡はありません。それに敵の気配もありませんでした。恐らく、ロウンの魔力と反応して作動するタイプのトラップですね」
「チッ。つまんねーマネしやがる」
メキィ! ロウンが近くに落ちていた木片を粉々に握り潰すと、憤怒に染まった顔で振り返った。
「生け捕りだかなんだか知らねーが……ぶち殺す」
「はぁ……いいですよ、ぶち殺しても。最悪、死ぬ前に僕が回復させるので」
コルが杖を振るう。
と、爆散したトイレが、まるで時間を巻き戻すかのように元に戻った。
「さあ、行きましょうか」
「オウ。バトルギルドに喧嘩売ったこと、後悔させてやる」
まだ【評価】と【ブクマ】が済んでいないという方がいましたら、どうかお願いします!
下部の星マークで評価出来ますので!
☆☆☆☆☆→★★★★★
こうして頂くと泣いて喜びます!




