捜索──⑤
「サノアが、俺を探している……?」
これはなんの冗談だろう。
あいつが俺を探している、だって?
ターコライズ王国から受けた仕事だからか?
それとも、何年も見ない間に、愛国心が芽生えたとか?
……いや、あいつはそんな奴じゃない。
多分こっちに来たのも、何か別の理由があってのことだろう。
俺を探すためだけに来るなんて、そんなことはありえない。
じゃあなんのために……。
腕を組み、思案する。
サノアの天職は拳闘士だ。
天職が与えられる前から素手で魔物を倒したり、修行ばかりの修行バカ。戦うのが好きな戦闘バカで、戦闘狂。
更に、ターコライズ王国国内では既にプラチナプレートとして有名になっている。
そんなこともあり、ターコライズ王国でサノアに手を出す奴も少ないと聞いたことがある。
……まさか。
「トワさん。サノアはもしかしたら、誰かと戦うために来たのかもしれません」
『……戦う、ですか? どういうことでしょ〜?』
「サノアは度を超えた戦闘狂です。俺を探すという名目でブルムンド王国に乗り込み、強い人と戦うのが真の目的かも」
これは推測に過ぎない。
けど、確信にも似た推測だ。
特に、同じ天職の人で国内最強の人──。
「ッ! ロウンさん……!」
『……バトルギルドのミスリルプレート、ロウン・バレット氏ですか〜? 確かに彼も強いですが、負けるようなことは……』
「確かにロウンさんが負けることはないと思います。でも、サノアの強さはそこじゃないんです」
『そこじゃ、ない?』
トワさんが首を傾げる。
「あいつは、ターコライズ王国でこう呼ばれていました。──破砕者と」
◆
同日同時刻。
ミスリルのソロクエストを終えたロウンは、郊外の荒野でアシュアと向き合っていた。
「悪いな、アシュア。いつも訓練に付き合ってもらってよ」
「構わないよ。絶大な力を持つコハク君も、今なお強くなるために努力している。俺達がサボってる訳にはいかないさ」
剣を抜き、構えるでもなく自然体で剣を握るアシュア。
ロウンは鉄鋼で覆われた拳をぶつけ、筋肉を隆起させる。
「……行くぜェ!」
力の限り地面を蹴る。
直後地面にヒビが入り、一瞬でトップスピードまで加速。
鍛え抜かれた筋肉を総動員させ、アシュアに向けて拳を振り下ろした。
その拳をアシュアは、バックステップでかわす。
目標を見失った拳はそのまま地面に突き刺さり。
ゴオオオオオオォォォッッッ──!!!!
爆発音と共に、地面がひっくり返った。
半径5メートルに渡って作り出されたクレーターに、アシュアはバランスを崩す。
更に辺りを覆う土埃。
そのせいで、ロウンの姿を見失った。
が──。
「フッ──」
「ッ!」
自身の左側へ無造作に振った剣が、そこにいたロウンの頬を僅かに斬り裂いた。
空中で身をひるがえしたからいいものを、下手をすれば目を潰されていた。
急遽アシュアから距離を取り、構え直す。
アシュアは剣を下ろし、ロウンに向かって肉薄した。
「ハッ!」
「オルァ!」
繰り出される無数の剣撃に、無数の拳撃をもって迎え撃つ。
撃ち、弾き、逸らし、かわす。
2人の攻撃により衝撃波が生じ、地面を抉る。
拮抗しているかのように見える2人の撃ち合い。
が、僅かにアシュアの方が手数が多く、ロウンは圧に負けて斬り飛ばされてしまった。
「なんの……!」
バランスを崩すも、空中でバク宙し──空間を蹴りつけて勢いを完全に殺した。
「へぇ……!」
ロウンの荒業に、アシュアは驚きつつも口角を上げる。
アシュアも、空間を斬りつけて斬撃を飛ばせる。
だが、空間を攻撃することで勢いを殺すことはできない。
思いもよらぬものに、アシュアは無意識のうちに戦闘のギアを上げた。
アシュアからの圧が高まるのを察し、ロウンの中のギアも上がる。
次の瞬間──。
「「ッ──誰だ!!」」
揃って同じ方向を向いた。
距離にして10キロ。
地平線にそびえ立つブルムンド王国首都、アレクスの壁。
そこからこっちに向けて僅かに発せられた闘気に、戦闘のギアが上がった2人は気付いたのだ。
しかし、既に闘気は感じられない。
気付かれたことに、気付かれたらしい。
「……誰かな?」
「さあな。だが……この距離でも感じ取れるほど、濃密な敵意だったことには変わりない」
2人は徐々にギアを下げ、並んでアレクスを見る。
あそこに、強い奴がいる。
考えは一緒なのか、2人は揃ってアレクスへ向かって駆け出した。
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