真髄──②
◆
『──それまで!』
ピタッ──!
剣精霊の喉元に刃を突き付けた。
それと同時に審判が止め、辺りに静寂が流れる。
僅かに力を入れたら喉を掻っ捌くことのできるほど、ギリギリの寸止め。
時間にしてたっぷり数秒。
直後、割れんばかりの喝采が響いた。
『時間にして3ヶ月!』
『昼夜問わず、機械人形のお姉ちゃんに回復してもらって!』
『必要最低限の休憩を挟みつつ!』
『1000連勝たっせー!』
剣精霊達の喝采と歓声が、まるで遠くのように聞こえる。
あまりにも過密すぎるスケジュールと、幻獣種の超絶スパルタ訓練の成果も相まって、伸び悩みやスランプもなく瞬く間に1000連勝まで来れた。
が、その結果。
「ぁ……ぅん……」
俺の精神は、崩壊しかけていた。
と言うより、今返事をしてる俺と、それを客観視してる俺が別にいる感じ。
何だろう、これは。不思議な感じだ。
『ご主人様、今戻します』
「……もど、す……?」
スフィアの手が俺の頭に触れると。
まるでスイッチが切り替わるように、目の前の景色が鮮明になった。
「あれ? 俺……」
『過酷な訓練の結果、新たな人格が形成されたようです。1000人斬りをしたご主人様は、今とは違うご主人様ということになります』
「人格の形成?」
『要するに、二重人格ということです』
何が要するになの!?
え、なに。今の俺の体、人格が2つあるの!? 何それ嫌すぎる!
(嫌すぎるは、ひどい……もう1人の俺……)
「えっ」
(今俺は……君の脳に直接語り掛けている……)
こいつ、直接脳内に……!
『人格が別ということは、魂が別ということ。今のご主人様と、もう1人のご主人様は別人。言わば、テイマーのご主人様と剣士のご主人様ということです』
「なるほど……これ、デメリットとかあるの?」
『基本的にありませんが、人格が切り替わるとテイマーの力を使えなくなります』
デメリットだらけじゃないか!?
確かに俺自身強くなりたくて剣の修行をして来たけど、テイマーの力を使えなくなるのは無理だ。
それに真剣勝負で1000連勝できても、テイマーの力が使えなきゃライガとの魔人化もできない。それじゃあ意味がないんだ。
「これ、どうにかならないの?」
『人格の統合が可能です』
「じゃあよろしく」
(え)
え、じゃないよ。
確かに剣士としての人格のお陰で、俺は強くなれた。
それでも、今の俺の人格で強くならないと意味がないんだ。
(……しょーがない。俺も、君自身だし……いいよ)
……悪いな。
「スフィア、頼む」
『かしこまりました』
スフィアの体内からモーター音が響き、瞳が虹色に光る。
と、手の平から青色の液体が入った小瓶が現れた。
『こちらが精神統合薬となります。遠い未来、解離性同一性障害を治す薬として開発されるものです』
「ありがとう」
スフィアから薬を受け取り、蓋を取る。
(俺が君と統合すれば……俺の技術は、君のものになる……俺の意識は消える。けど……俺は君の中にいる。いつでも頼っていいよ……)
ああ、その時は頼む。
深呼吸し、スフィアから貰った精神統合薬を見つめる。
……ええい!
グビッ──。
「ッ!」
(っ!)
俺と、もう1人の俺の意識がブレる。
全身の感覚が鈍り、思考が溶け、1つの体に2つの意識があるという奇妙な違和感が、徐々に合わさっていく。
俺の潜在意識に、もう1人の俺が手に入れた我流剣術が定着していく感じだ。
(あああああぁぁっ、とけるっ、とけちゃう〜……!)
お前、それが最後の言葉でいいのか。
そんな情けない言葉を最後に、もう1人の俺は本体の俺の意識へと統合され。
「────ッ!」
次の瞬間、まるで新しい世界が開かれたように、全ての感覚が鋭敏になった。
体の動かし方。
気の張り方。
気配の消し方。
全てを、感覚で理解した。
『おめでとうございます、ご主人様。無事精神の統合が完了しました』
「……何だか不思議な感じだ。なんと言うか、急に別の力を得たような……魔人化に近い感じがする」
手を握り、開き。フラガラッハを抜いて構える。
本当、自分の体じゃないくらいスムーズに動くし、軽い。
これが、真に剣術をマスターした体か。
これなら、毒の魔族も……!
『コハク、準備はいい?』
「……ああ、行こう」
魔族を倒しに、毒の渓谷へ。
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