未知──④
……ま、今はいいか。それより。
「この魔石、大きくない?」
魔物からドロップする魔石は小指の爪くらい。大きくても親指くらいが普通だ。
でもこれは手の平サイズのでかさだ。
俺が見てきた魔石の中で、間違いなくトップクラスに大きい。
俺の肩でそれを見ていたクレアが、『当然よ』と胸を張った。張る胸、ないけど。
『この島は前人未到の、人類にとって未知の島よ。人間が魔物を狩って魔石を得るんじゃなくて、魔物同士が捕食しあって魔石を取り込むの。だから通常より大きな魔石が手に入るのよ』
そんな原理があったのか。
となると、龍種や獣王種の捕食者の頂点にいる魔物は、一体どれだけでかい魔石を持ってるんだ?
……いや、考えるのはよそう。
確かに魔石を売れば莫大な富を築けるけど、金だけのために魔物を殺すのは間違ってる。
これも、俺がテイマーって天職だからそう思うのかもしれないけどね。
サイ猪の魔石を回収し、当たりを見渡す。
……俺とサイ猪がこれだけ暴れても、他の魔物は気にせず水飲んでるな。
つまり、俺やサイ猪は眼中にないと。
この大陸のヒエラルキーはどうなってるんだ。
魔石をスフィアに渡し、湖を後にする。
ここで休憩にしてもよかったけど、あのサイ猪でさえ幻獣種が近くにいる俺に向かって来たんだ。
下手したら、あれよりヤバい奴が来るかもしれない。
だからここは一先ず、別の場所を目指すことにしたのだ。
フェンリルの鼻とスフィアのマップで、本当に危険な所は避けて森を歩く。
と、急にフェンリルが歩みを止めた。
「フェン、どうしたの?」
『甘い香り……お花の香りがするよ』
「花の?」
『うん。いっぱいある』
花の香りがいっぱい……花畑ってことかな。
こんな人のいない場所でも、そんな場所があるんだ。
「楽しそう、行ってみようよ!」
『コハク、あんたもう少し危機意識持った方がいいわよ、本当に』
「なんで? 花畑でしょ?」
『ここの大陸に自生する花が、単なる花なわけないじゃない』
「……え?」
◆
「……何これ?」
フェンリルとスフィアの案内でやって来た花畑。
視界いっぱいどころか、地平線の彼方まで見える色とりどりの花。壮大で感動すら覚える花畑だが……1つ、他の花畑とは違うところがあった。
「えっと……何で魔物が溶けてるのでしょう?」
花畑の至る所に、体がドロドロに溶けて息絶えている魔物の死体がある。
だけど、特に腐臭や死臭がするわけではない。何だ、これは?
『ご主人様。こちら食肉植物です』
「食肉植物? 食虫植物じゃなくて?」
『はい。甘い匂いで草食の魔物をおびき寄せ、蜜に入っている神経毒で動かなくさせてから溶解液で溶かし栄養とする。ここは、そんな食肉植物の自生域なのです』
「これ、魔物じゃないの?」
『はい。魔物ではなく、この島固有の植物です』
何それ怖い!?
こんなのがもし海を渡って俺達の住む場所に流れ着いたら、とんでもないことになるよ!?
愕然としていると、クレアがやれやれと言った風な顔になった。
『因みに、この植物は物凄く火に強いの。私の炎か、龍種のブレスか、バトルギルドのコルレベルの炎じゃないと、焦げすらつかないわ』
『更に生命力が高く、根っこが少しでも残ってると翌日には生えてきます』
「悪夢みたいな植物じゃん……」
ここに人がいたら、間違いなく生存競争で自然淘汰されるレベル。
『でもでも、ボクにはおやつみたいなもんだよ! 甘くて歯ごたえがあっておいしー!』
「ちょっ、ダメだってフェン! こんなの食べちゃダメ!」
尻尾を引っ張るけどビクともしない! くそうっ、力強い!
吐き出して! ほら吐き出して!
『ご主人様、ご安心を。フェンリルの牙や消化能力の前では、この悪魔のような植物もただの植物です。文字通り、フェンリルにとってのおやつですね』
「見てるこっちがハラハラするんだよ……!」
少しでも根っこが残ってたら再生する生命力と、生物の肉体を痺れさせ、溶かす粘液を出すんだから、食べたら体の内側から溶けそう……。
こんなのがそこら中に自生するって……やっぱりこの大陸、超怖い……。
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