未知──③
スフィアが防御シールドを解く。
同時に、サイ猪がとんでもないスピードで迫って来た……!
「くっ!」
ギリギリのところで回避する。
その勢いでサイ猪は、湖の中に突っ込んでいった。
だが水中で向きを変えたサイ猪は、異様な力で水中から湖のほとりにジャンプして上った。
「水中からジャンプして陸に上がるって、どんな力してんだ」
あのまま沈んでくれたら楽だったんだけど、そうも行かないか……!
フラガラッハを抜き、サイ猪を注視する。
弱点はそこら辺の生物と変わらない。
頭から真っ二つか、首を跳ねるか、心臓を切り裂くか。
だけどあのスピードに俺がついていけるかわからない。
みんなは今の俺なら余裕だって言ってたけど、さすがに無理があるんじゃ……!?
『ご主人様、落ち着いてください』
「いや、落ち着けって言われても……!」
『大丈夫です。今までやって来たことを思い出してください』
今までやって来たこと?
大陸に来てから魔物と戦い。
魔物の攻撃を三日三晩避け。
この1ヶ月は剣精霊達と死に物狂いの真剣勝負。
……あ。
「ぶおおおおおおおおぉぉっっっ!!!!」
サイ猪が雄叫びを上げて突っ込んでくる。
それに対し俺は冷静に、無駄な動きを省き、必要最小限の動きでそれを避けた。
「ぶおっ!?」
突然標的を失ったサイ猪は、そのまま樹木に頭をぶつけた。
そうだ。今の俺は前までの俺とは違う。
1人でも戦える力を身に付けるために、この1ヶ月修行して来たんだ!
「ぶもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」
再び雄叫びをあげるサイ猪。
こいつはスピードはあるが、それ以外の攻撃方法はないみたい。
多分だけど、あの鋼のような体毛で殆どの攻撃を通さないんだろう。
スピード+硬さ。それだけで生き残って来た魔物だと思う。
だけど。
「ごめんな」
突っ込んで来たサイ猪の角をサイドステップで避け、フラガラッハを首に向けて振り下ろす──!
「ぶおぁ──!」
なっ……避けた!?
まるでボールのように、横に転がって俺の攻撃を避けたサイ猪。
まさかこんな避け方をする魔物がいるなんて。
俺から離れたサイ猪は立ち上がり、間髪入れず突っ込んで来た……!
この魔物は直線の攻撃しか持っていない。だから避けるのは簡単だが。
「くっ……!」
また転がって避けられた……!
この曲芸みたいな動きで俺の攻撃が当たらない……!
『ご主人様』
『待ちなさい、スフィア。口出し無用よ』
『クレア……そうですね。これはご主人様の修行ですものね』
そうだ、これは俺が強くなるための修行だ。
それでもちょっとはアドバイスが欲しかった……!
真正面から真っ二つに……いや、それはダメだ。ミスしたらあの角に俺の体が貫かれる。
やっぱり避けて首を斬るしかない。
避けて斬る。避けて斬る。避けて斬る。避けて斬る。避けて斬る。避けて斬る。避けて斬る。避けて斬……。
「あ」
避けて、斬るんじゃないんだ。
「ぶもああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」
痺れを切らしたサイ猪の怒涛の突進。
だけどもう怖くない。
さっきまで必要最小限の動きで避けていたが……あれでも、まだ動きに無駄があったんだ。
いや、無駄な動きというか、動きが大きかった。
その動きの大きさは、避けてから斬るのに向いていない。
ギリギリまで引きつける。
当たるか、当たらないかのところまで我慢して、我慢して。
──今!
「フッ──!」
「ぶもっ!?」
必要最小限。
サイ猪の攻撃が触れるか触れないかのところで。
避けながら赤い線を斬り裂いた。
抵抗なくサイ猪の首は斬り飛び、赤い鮮血を撒き散らして絶命。次の瞬間には灰に変わり、魔石とドロップアイテムが地面に落ちた。
避けて斬る、ではない。
避けながら斬る、が正解だったんだ。
『ご主人様、お見事です』
『自分で正解を導き出すなんて、やるじゃない』
『コゥ、かっくいい! ちょーかっこいい!』
「……まさかみんな、知ってて言わなかった?」
『『『…………』』』
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