魔人化──④
分離したスフィアに回復してもらい、なんとか体を起こした。
これでフェンリル、クレア、スフィアと魔人化したわけだけど。まさかこんなに力が出るとは思わなかったな……。
呆然とした気持ちで、攻撃した方向を見る。
大地を深々と抉った爪痕。
吹き飛び、溶解した大地。
もうもうと上がるきのこ雲のような土煙。
全員が全員、とんでもない力を秘めてるのが改めてわかった。
今はまだ1回の攻撃だけで力尽きちゃうけど、もしこれを使いこなせたら……想像するだけでとんでもないな。
これを俺が……正確には、魔人化した俺がやったんだ。正直、全く現実味がない。
呆然としている俺の周りを飛んでいたクレアが、肩に座ってない胸を張ってどや顔をした。
『どうよコハク。これすごいでしょ? すごいでしょ!?』
「あ、うん。すごすぎるくらいだよ」
『どやぁ、どやぁ~!』
どや顔可愛いな。
だけどこんなに圧倒的な力を見せられたら、そうなる気持ちもわかる。……わかるけど……これ、力をコントロールできないと小さい国の1つや2つなら簡単に滅ぼせるレベルだぞ。
体力増強。剣技の習得。それに加えて魔人化の力のコントロール……やるべきことが山積みだな、これは。
ごくりと生唾を飲み込む。
すると、側に座っていたスフィアが何食わぬ顔で口を開いた。
『ご主人様。今魔人化した3体の中で、誰が一番ご主人様の中でしっくりきましたか? 当然、私ですよね?』
「え」
『は? 何言ってるのよこのガラクタは。当然私よね、コハク』
「えっと」
『何言ってるのさ。コハクと一番長く一緒にいるのはボク。つまりボクとの魔人化が一番相性がいいに決まってるよ』
「……」
3体が睨み合い、見えない圧力のようなものがぶつかり合う。
近くにいるだけで、思考するより先に体が逃げ出したいと感じている。
やっぱりこの3体、とんでもないわ。
『コハク、どうなのよ』
『ご主人様』
『コゥ、ボクだよね』
「い、いやぁ~……正直みんなすごかったと言うか、甲乙つけがたいというか」
これは本当の気持ちだ。
みんな強く、誰が一番よかったなんて決められない。
だがみんなはそれを別の意味で捉えたらしく、目が妖しく光った。
『なるほど……つまり、今ここで甲乙つけろと仰っているのですね、ご主人様』
『ふーん。いいじゃない、やってやろうじゃないの』
『コゥの一番はボク。それは譲らないよ!』
正に一触即発。どうしてこうなった。
「ら、ライガ、止めないと……!」
『いえ。この大陸であれば誰にも迷惑はかけませんし、止めなくてもよろしいでしょう。むしろ外では本気を出せない分、ストレス発散になっていいかもしれませんな。はっはっは』
はっはっはじゃないよ! はっはっはじゃ!
ええいっ、こうなったら俺だけでも止めないと!
と、みんなを止めようとしたが。
『『『フッ……!!!!』』』
次の瞬間衝突し、天高く昇って行ってしまった。
ああ……遅かったか。
上空で激しいバトルを繰り返す3体。
それはまるで花火のような美しさだが……衝撃波がここまで届いてくる。ここが絶海の孤島でよかった。外の世界だったら、衝撃波だけで滅ぶ国も出そうなレベル。
『まあ、3日もすれば飽きて戻ってきますよ』
「3日3晩戦っても消耗しない幻獣種って、やっぱ化け物なんだな……」
『その化け物を従えているのです。コハク様、一刻も猶予はありませんぞ』
墓穴掘った……!
『本日はもうお休みしましょう。また明日から、剣精霊達とガンガン手合わせしていきますぞ』
「わ、わかったよ……」
剣精霊1000体に連勝か……そう考えると、途方もない挑戦な気がして来た。いや、無謀か。今更だけど。
ここまで来た以上逃げられないんだ。なんとか生き延びるしか方法はない。
『それではコハク様、おやすみなさいませ。よい夢を』
「ああ、うん。おやすみ、ライガ」
ライガは恭しく頭を下げると、体が赤く発光して姿を変えた。
黄金の台座に突き刺されたような、深紅の剣。これがライガの休眠モードらしい。
因みにだが、幻獣種でも休眠が必要なタイプと、いらないタイプが存在する。
天狼フェンリルと火精霊クレアは、生身の体を持っているから休眠が必要となる。対して機械人形スフィアは、名前の通り機械。ゴーレムと同じで、生身の体を持っていないから、休眠を必要としない。
……まあ、スフィアに抱き締められたとき、本当に機械かってくらい温かくて、柔らかくて、いい匂いがしてたんだけど……え、今更だけど、本当に機械だよね?
遥か上空で戦闘を繰り広げる3体を見上げる。
本当は寝たくない。寝たら明日が一瞬で来てしまうから。でも寝なきゃ、明日からの地獄には耐えられないだろうな……大人しく寝よう。
「おやすみ」
誰に言うでもなく呟き、そっと目を閉じた。
まだ【評価】と【ブクマ】が済んでいないという方がいましたら、どうかお願いします!
下部の星マークで評価出来ますので!
☆☆☆☆☆→★★★★★
こうして頂くと泣いて喜びます!




