剣の里──①
『着きました、コハク様』
ライガについて行くこと数十分。
森や川、谷、洞窟など入り組んだ道なき道を抜けた先。
俺達が降り立った大草原と似たような草原が広がり、地面には無数の剣が突き刺さっていた。
刃こぼれし、折れ、錆つき……剣の里というより、剣の墓。正しく墓場だ。
「酷いね……」
『否、そうとも限りません』
「え……どう見てもこれは……」
破壊された剣ばかりに見えるけど。
でもライガは首を横に振り。
『確かにここには、非情にも破壊された剣もあります。ですが全てではありません。主を守り、栄誉ある“死”を迎えた剣もあるのです』
そっか、そういう剣もあるんだ。
ここにいるのは可哀想な剣だけじゃなくて、立派に務めを果たした剣もいるんだね。
思わず近くに刺さっていた剣に触れる。
「……お疲れ様」
主人と共に戦い、散っていった彼らに心からの敬意を。
目を閉じ、彼らの幸せを祈る。
直後。
「え……な、何?」
け、剣が光って……?
しかも俺の触れたものだけじゃない。この草原に広がる無数の剣が、同じように淡い光を帯びている。
その光が徐々に強くなっていき、モヤのように宙を漂うと。
『コハク様、ご紹介致します。……こちらが、剣精霊達です』
半透明で人型の精霊達が、一斉に姿を現した。
『『『こんにちはーーーー!!!!』』』
「……こ、こんにちは……?」
子供……とは違うな。大人っぽい体付きの子もいれば、子供みたいな体格の子もいる。
だけど身長が小さいんだ。
クレアと同じか、少し小さい精霊ばかりだな。
俺やみんなに一斉にまとわりついてくる剣精霊達。
元々人に使われる剣に宿る精霊だからか、人懐っこい子が多いみたいだ。
これが、伝説の精霊種か。
『お兄ちゃん遊ぼ!』
『遊ぼ、遊ぼ!』
『何する?』
『ちゃんばら!』
『殺陣!』
『果たし合い?』
『わたしもあそぶー!』
「わっ、ちょっ、待って待って!」
いきなりそんなグイグイ来られても!
『はっはっは。コハク様、もうみんなに好かれていますね』
『精霊種は基本臆病な性格をしていますから。流石はご主人様です』
『あ、アンタら抱きついてくるんじゃないわよ……!』
『ボク遊ぶ! 遊ぼ!』
ちょ、みんな助けて!?
◆
しばらくして、ようやく落ち着いた剣精霊達。
あぅ……もみくちゃにされた……。
『コハク、大丈夫?』
「あ、ああ。なんとか……」
無数にいる剣精霊達にあそこまで群がられると、流石に体力を持ってかれる。
そんな俺達は、ライガの案内でライガの寝床である洞穴へやって来ていた。
ここなら剣精霊達も入ってこないらしい。
助かった。あんな風にまとわりつかれたら、おちおち話もできなかったし。
『申し訳ございません、コハク様。人間のお客人は初めてなものでして』
「あぁ、気にしないで。みんな喜んでくれてたみたいだし」
『そう言って下さると助かります』
ライガは安心したような笑みで頭を下げる。
けど……あの子達を見て、思ったことがある。
「ライガ。本当に俺と契約していいの? 俺と契約すれば、ライガはここを離れて俺と一緒に来なきゃならない。あの子達は……」
『問題ありません。我ら幻獣種の喜びは主人に仕えることですゆえ』
ライガの言葉に、みんなもうんうんと頷いた。
俺なんかにそこまでの価値があるとは思えないけど……そう言って貰えると、俺は嬉しい……かな。
『それに、私の役目は既に他の者に継いでおります』
「役目?」
『この里を守護する役目です。ここ数十年、ザッカスと呼ばれる名匠の打った剣に宿る精霊達が、抜きん出た強さを持っていまして。1人1人では足りませんが、数十人もいれば十分に里を守れるでしょう』
ザッカスさんの剣精霊が……。
壊れてなお、別のものを守ってるんだね。これはザッカスさんに報告しなきゃ。
ザッカスさんも喜ぶだろうな。
『──む? コハク様、その剣は……』
「あ、うん。ザッカスさんの剣だよ」
『やはり! フラガラッハ。よい剣ですな』
「え。何で名前を……」
『それに宿る剣精霊から聞きました。今はまだ生まれたばかりですが、いずれ実体化もできることでしょう』
そうなんだ……フラガラッハに宿る剣精霊。いつか会ってみたいな。
腰に差さったフラガラッハを撫でる。
嬉しそうに、少しだけ淡く光った。
「……それじゃあライガ。テイムするけど……いいね?」
『はっ』
よし。
立ち上がり、ライガの前に立つ。
ライガは跪き、まるで王にかしずく騎士のように頭を垂れた。
そんなライガの頭に手をかざし、目を閉じる。
「《テイム》」
そう呟くと、手の平に複雑な幾何学模様が浮かび上がった。
幾何学模様がゆっくりと回転し、俺とライガの魂を徐々に結びつけていく。
ライガの燃えるような力が、俺の中に流れてくるのを感じ──次の瞬間、幾何学模様が俺とライガに吸収されるように溶け込んでいった。
「……うん。契約完了だ。ライガ、体の調子はどう?」
『…………』
「……ライガ?」
え、どうしたの? 固まったまま動かないけど。
『……むふっ』
……ん?
『……むふっ……むふふふっ……こっ、これが……これがコハク様と繋がっている感覚……! あぁ……あぁっ、いい……! これ程の充実感っ、数千年の時の中で初めてだ! むははははははは!』
え、やだ何こいつ怖い。
俺引き気味。他のみんなはうんうんと頷いてるけど。
確かに、君達も俺と契約した時こんな感じだったね。
それからしばし。ライガが落ち着くまで俺は白い目でそれを見守った。
まだ【評価】と【ブクマ】が済んでいないという方がいましたら、どうかお願いします!
下部の星マークで評価出来ますので!
☆☆☆☆☆→★★★★★
こうして頂くと泣いて喜びます!




