VS魔族──③
「さて、俺も少し本気を出すぞ」
なっ! 右腕が巨大化した!?
鋭利な爪は更に凶悪に。
細腕はロウンさんの腕よりも太く。
纏う闇も大きく蠢いている。
質量が狂ってる暗黒物質の形が変化し、巨大な剣になって左手に握られた。
右には漆黒の爪。左には漆黒の大剣。
それに伴い、魔族から感じる圧も高まってる……!
「まずは邪魔な魔物共。貴様らからだ」
「ノワール、ネロ!」
「避けろ!」
ザニアさんと、コロネさんの声が響く。
「遅い」
2人の使い魔が動く前に、魔族は既にアネモスへと肉薄していた。
振り上げられた巨大な爪。
「スフィア!」
『防御シールド!』
紙一重で防御シールドが魔族の爪を防いだ。
が、魔族は悔しがる様子も見せず……俺に邪悪な笑みを向けた。
「やはりな。この見えない何かの正体は貴様だったか!」
「ぅっ!?」
まさかっ、今の攻撃はそれを確認するため……!?
「貴様を殺さねばこやつらは殺せん。ならば──貴様から葬る」
来るか……!
『ご主人様には触れさせません!』
『《バースト・バーニング》!』
魔族を中心に現れた立体魔法陣。
そいつが一瞬輝くと、陽光のような炎が天を突く柱となって吹き荒れる。
「小癪!」
っ! 白骨になっても動くのかよ……!
『命がいくつあるか知らないけど、あの魔法で死なないって意味わからないんだけど!』
『口より手を動かしなさい!』
スフィアの両腕が変形。
白銀の刃が、モスキート音のような奇妙な音を響かせている。
『《技能付与・剣士》!』
「うぐぉっ!?」
すげぇ……あの魔族を、ケーキを切るみたいに簡単に切り刻んでる……!
『高周波ブレード──戦斬り!』
瞬く間に細切れになる魔族。
「お″っ……おごぉ″っ……!?」
『つぶれちゃえー!』
回復する暇もなく、フェンリル渾身のプレス!
まるでワンコがゴキを踏み潰すがごとく!
「……何が起こっているんでしょう……?」
「わかんねぇが……多分、コハクの使い魔が何かやってるんじゃねえか?」
「さすが幻獣種。デス・スパイダーの時を思い出すよ」
見てないで手伝ってくれませんかねぇ!?
フェンリルが飛び退くと、床にはひしゃげた体の魔族が蠢いている。
砕かれた骨。断裂した肉。潰れた頭。
全てが驚くほどの速さで回復していった。
「ぐむぅ……! 見えない力……覚えがあるぞっ。貴様、もしやとは思うが幻獣種テイマーか……!」
「だとしたら?」
「くっ……! 見えない魔物で攻撃を仕掛けるなど卑怯な……! 男なら正々堂々勝負せんかァ!」
「魔族に卑怯とか言われたくない!」
火精霊を騙って復活して来たくせに!
自分を棚に上げて何を言ってるんだ!
俺達の攻撃を見ていて唖然としている皆。
だけど、コロネさんが目をギラつかせたのが目の端に映った。
「総員、コハクにだけやらせるな! いくら幻獣種とは言え何が起こるかわからん! 一気に攻めろォ!」
「おぉ〜、コロネちゃんかっこい〜」
「トワ、貴様もだ! いい加減本気を出さんか!」
「えぇ〜、あれ疲れ……あ、嘘ですごめんなさい」
んん……? なんだ、何を言ってるんだ?
ふと、頭上を見上げる。
「じゃ、クルシュちゃ〜ん。よろしくお願いしま〜す」
「グルッ」
クルシュが大きく、大きく口を開き。
「あむっ」
トワさんを食った。
…………………………………………???
「食った!?」
「あむあむあむあむあむ」
美味そうに咀嚼すんな!
「ちょっ、ちょーっ!? あれ、あれいいの!?」
「あー、コハクくんコハクくん。トワちゃんはいつもこんなんだから大丈夫大丈夫」
俺以外、皆いつも通り。
えぇ……いいのか、あれで?
皆が魔族へ攻撃している間、クルシュは未だにトワさんを咀嚼している。
「ゴクンッ」
あ、飲み込んだ。
──ドクンッ──
ゾワワワァッ──!
ぇ……なんだ、今の鼓動は……?
場所はクルシュから。
淡く白い光を纏い、鼓動と共に体が大きくなったり縮んだりしている。
……あれ? クルシュ、本当に縮んでない?
グングン、グングン縮んでいくクルシュ。
それが人間くらいのサイズになった瞬間──体の形が変化した。
逞しく、太い腕は細くしなやかに。
巨体を支える脚はまるでカモシカ型魔物のごとく。
頑強な鱗に覆われていた胴体は女性のような曲線美に変わり。
獰猛な目と牙を持つ顔は瞬く間に女性の顔になり、ミルキーウェイのような銀髪が波打った。
って、これ……!?
「と……トワさん……!?」
『はいはい。あなたのトワ・エイリヒムですよぉ〜』
嘘……あれ、何? 変身? でもあの姿は……?
愕然とする俺。そんな俺の傍にやって来たレオンさんが、ムスッとした顔で見上げた。
「はぁ……トワは、自身の体をテイムした魔物に食わせることで融合し、一時的に魔物の力をその身に宿せる特異体質なんだ。俺達はそれを、魔物と人間の融合……魔人化と呼んでいる」
「魔人化……」
確かに……あの体からは暴力的な力をビシビシと感じる。
なるほど、合点がいった。
最初会った時から感じていたトワさんの底知れぬ力。
それは、これが影響していたんだ……。
『さあ魔族ちゃ〜ん。……ア〜ソビ〜マショ〜』
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