VS魔族──①
「──スフィア!」
『はい!』
直感を頼りに、この場にいる全員に防御シールドを展開。
直後──防御シールドに阻まれ、地響きのような轟音と共に漆黒の何かが弾けた。
正直全く見えなかった。
多分何らかの攻撃だろう。
「コハクさ〜ん、ありがとうございます〜」
「漆黒の槍……いや、棘か」
「いやぁ、速ぇ速ぇ」
「こよりのような棘でしたね」
「魔法……いや、魔力の塊みたいだったな」
「はっはー! とんでもねぇ速さだぜ!」
「コハク、助かった」
あ、俺以外皆見えてたのね。
これが実戦経験の差か。
油断せず、吹き荒れる闇の中心を凝視する。
……何か見えて来たな。
闇の中でもくっきりと浮かび上がるほどの存在感。
頭には巨大な角。背中には人間の手のような奇形の翼。
そして闇の中に光る赤い瞳。
こいつは……もう言い逃れはできないな。
「魔族ッ──!」
「「「「「ッ……!?」」」」」
皆、俺の言葉に驚愕する。
俺の1番近くにいるレオンさんが、魔族から目を離さず口を開いた。
「魔族……本当なのかい?」
「俺の使い魔が教えてくれました。間違いなくあれは、3000年前に封印された魔族の1体です」
……ぅっ……クソッ、体が無意識のうちに震える……!
ふ、震えが止まらない……!
あいつを前にしてるだけで、全力で逃げろって本能が叫んでる。
これが魔族……これが、1体で都市を壊滅させることのできる種族……!
魔族が右手を振るう。
体にまとっていた闇が吹き飛び、その姿が顕になった。
褐色の肌。
灰色の髪。
黒い目に赤い瞳。
巨大な角、人間の手のような翼。
衣服ではなく、闇の炎をまとっている。
性別は男。思ったより華奢な体付きだ。
でもこの圧力……息をするのも苦しく感じるぞ。
防御シールド越しとは言え、油断すると一瞬で殺されそうな圧だ……!
魔族はゆっくりと首を動かし、俺達を1人ずつ一瞥する。
「……■■■■■■■■■■■■」
ゾアァッ──!
な……え……なんだよ、今の声っ。
いや声じゃない。音だ。しかも不快に不快を重ねた、最悪の音。
それが魔族の口から発せられた。
「■■■■■? ■■■……そうか、人間にはこっちの言語でないとわからんか」
ぁ……急に人間の言葉になった……?
さっきのは、いわゆる魔族語というやつなんだろうか。
人類の言語を話すようになった魔族は、再び皆に目を向ける。
「ふむ……粒揃いだな。捧げられた魂は封印の解除に使ったからな……ちょうど腹が減っていた」
スッ……。右手が黒獅子のノワールへ伸ばされる。
あの右手、まずい!
「ッ! ノワール! ネロ!」
ザニアさんも感じたのか叫ぶように指示を出し、ノワールとネロがその場から跳躍して逃れる。
同時に、魔族の右手が握られ──2体が元いた位置に、暗黒の球体が現れた。
『コハク、やばいわ……あれは黒死炎よ』
「黒死炎?」
『生物が触れただけで魂を燃やし尽くす即死の炎。人間には扱えず、防ぐこともできないわ!』
なんだって……!?
なんつー力を使ってんだこいつ……!
「皆さん! 今の黒いのは黒死炎というものです! 絶対に触れないでください! 即死します!」
「即死、ですか!?」
「おいおい冗談じゃねぇぞ……!」
防ぐことのできない即死の魔法。
だからスフィアの防御シールドでも防げなかったんだ。
「ふむ……? 何故人間がこの炎を知っている」
「え?」
『ご主人様、私達は同じ魔物にしか見えません。だからこいつには見えないのです』
なるほど、そういうことか。
幻獣種は厳密に言えば魔物。
魔物同士には姿は見えるが、人間や亜人には見えない。
魔族にもそれは同じなのか。
魔族は俺を睨めつけると、俺へと手を向けた。
「……貴様からはよからぬ気配を感じる。まずは貴様から──」
「させないよ」
「ッ!」
アシュアさんが背後からの剣撃。
魔族はそれを、身を翻して回避。だが僅かに頬が斬れて青い血が流れた。
それもつかの間傷から闇の炎が噴き出し、次の瞬間には完全に完治した。
傷も一瞬で治るのか、魔族ってのは。
「いい動きだ。貴様、剣聖だな」
「なりたてだけどね」
2人の視線が交錯した。
そのお陰で、俺への警戒が緩んだ。と、思う! そう思うことにする!
「皆さん! あいつの攻撃は俺が何とかします! 皆さんは攻撃に専念を!」
「頼むよ、コハク!」
瞬きする暇もなく、レオンさんが魔族へと肉薄する。
それを合図に、全員が魔族へ向けて駆け出した。
「コル! 強化しろ!」
「はい!」
コルさんが魔法杖で地面を突く。
瞬時に全員の体が淡く輝き、《魔力付与》されたのがわかった。
「オラオラオラァ!!」
ロウンさんの剛腕が魔族を殴り付ける──が、奴はそれを片手で受け止めた。
「なにィ!?」
「いいパワーだ。精進すれば更にいい戦士になっただろうが……貴様はここで終わりだ」
「やばっ──!」
魔族の指先だか爪だかわからない鋭利な手が、ロウンさんへ向かって伸び──。
「俺の部下を殺らせはしないよ」
間一髪、レオンさんの槍がそれを弾く。
腕を切り返して心臓部へ向けて突き出すと、魔族はロウンさんの手を離して回避した。
「アイレ、アネモス、リーフ!」
コロネさんの声が響く。
3体の妖精種が、回避した魔族へ向けて風の刃を放った。
「小賢しい」
魔族が腕を振るうと、漆黒の刃が放たれて風の刃を掻き消した。
妖精種もギリギリ回避。
だがそのうちの1体の右腕が吹き飛んだ。
「アネモス!?」
妖精種は魔法耐性が異様に高い。
それなのに、魔法攻撃が有効になるなんて……魔族には常識は通用しないみたいだなッ。
「スフィアは防御シールドを徹底、クレアはあいつが使う炎系魔法を発動前に潰して。チャンスがあれば攻撃」
『かしこまりました』
『了解よ』
スフィアの目が青く、クレアの手が赤く光る。
『コゥ、ボクは? ボクは?』
尻尾をブンブン。おめめキラキラ。
戦いたくてうずうずしてるんだろうな、フェンリル。
「皆を踏み潰さないなら、行ってきていいよ」
『ウオオオオオオオオンッッッ!!!!』
フェンリルが雄叫びを上げて魔族へ向かい走った。
今、俺自身があいつに近付けば足でまといになる。
なら、俺ができることをやるしかない……!
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