剣聖の試練──③
近くの花畑に降り立ち、周囲を見渡す。
栄養満点の土壌に咲く花は、色鮮やかなものだ。
近くで10歳くらいの少女と俺と同い歳くらいの女性が、花かんむりを作って遊んでいる。
が、おかしい。
話に聞くと、ここは荒地となっていて草木もろくに育たない場所だ。
だけどこれは……。
「スフィア。どうなってるの?」
『……検索にも引っ掛かりませんね。ですが……まさか……』
スフィアが唇に指を当てて考える。
『……恐らくですが、超常の力が働いているのかと』
「超常の力?」
『幻獣種です。ごく稀に、幻獣種が介入する出来事は検索に引っかからない時もあるのです』
そうなのか……。
「でも、何で幻獣種が?」
『そこまでは……』
「スフィアでもわからないことがあるんだ……」
『んな!? それは聞き捨てなりません! 聞き捨てなりませんよ!』
2回も言わなくても。
『私の力は半分も出していません! 待っていてください、今から私の力を全開放して……!』
「あ、いいよ。時間かかりそうだし。今はゴブリン討伐が先」
『しょんな……!?』
申し訳ないけどね。
この辺にゴブリンがいるなら、ミラゾーナ村まで来るかもしれないし。
『ぷぷぷ、ざまぁ』
『むかぁ! あなたなんて燃やす以外能がないくせに!』
『むかちーん! あんたなんて肝心なところで役に立たないくせに!』
『『むぎぎぎぎぃ……!』』
相変わらずだなぁ、2人とも。
2人を無視して、フェンリルの鼻を頼りにゴブリンを探す。
「フェン、見つかりそう?」
『うん! ゴブリンくさい!』
ああ、確かにゴブリンはくさい。
人間の俺でもわかるくらいだからな……フェンリルからしたら、相当なものなんだろう。
ミラゾーナ村から南へ歩くことしばし。
花畑や草原が終わり、周囲が荒地になった頃。
「あ、いた」
ゴブリンの群れだ。
依頼書の通り、10匹が固まって行動してる。
「ギャッ!」
「ギャッギャッ!」
「ギャギャギャッ!」
まだこっちには気付いてないのか、互いにギャーギャー言ってる。
刃こぼれした刃物。
ボロボロの棍棒。
腰には布。
緑色の肌に醜悪な見た目。
間違いなくゴブリンだ。
俺はフラガラッハを抜き、構えた。
じっとゴブリンを注視する。
……見えた。赤い線だ。
「……そういえば俺、剣ってほぼ初めて使うな」
『ご主人様。もしよろしければ、私がお手伝いしましょうか?』
「お手伝い?」
『トワ様とクルシュ様を思い出してください。トワ様の身体強化魔法を、クルシュ様に付与されていましたよね?』
……確かに、そんなことしてたな。
でも、なんで今その話を……あ。
「えっ、まさかあれの逆ができるの?」
『はい。本来テイマーは使い魔が戦うため、主自身が戦うことはありません。それに魔法や付与を使える魔物も少ないため、一般的には知られてない方法です』
そんな裏技みたいな方法があったなんて……。
確かに主から使い魔へ付与ができるなら、使い魔から主へ付与することも可能。
どうして今まで考えつかなかったんだ。
『今から付与します。よろしいですか?』
「うん、お願い」
『では……《技能付与・剣士》』
スフィアの目が妖しく光る。
直後、俺の中に、何かが流れ込んできた。
頭と体に剣士の動きがトレースされる。
どう相手を見ればいいのか。
どう動けばいいのか。
どう剣を振るえばいいのか。
全て──感覚で理解した。
『私の中には、あらゆる職業の情報が保存されています。それを《技能付与》という形で、ご主人様に付与しました』
「いやすごすぎない?」
それって剣士だけじゃなくて、弓術士、槍術士、拳闘士……もしかしたら魔術師も付与できるってこと?
すごい。というか、もはやずるい。
改めて幻獣種の規格外っぷりに微苦笑を浮かべた。
「ギャッ? ギャッギャッ!」
っと、気付かれたか。
だけど今なら……!
フラガラッハを右手に持ち、右脚を引いて腰を落とす。
本当の剣士職なら、武技と呼ばれる力を使える。
例えば一振で3つの斬撃を出したり、瞬発的なパワーを向上させたり。
でも俺は剣士職じゃないから、武技は使えない。
それでも──。
「ふっ……!」
流れるように。
そして舞うようにゴブリンの攻撃を受け流し。
ゴブリンの体に一直線に走っている赤い線を。
スパッ──。
【切断】した。
「ギャガッ!?」
縦真っ二つ。
鮮血を撒き散らし、絶命した。
その直後にゴブリンの死骸は灰となって消える。
俺は武技を使えない。
それでも──皆が俺を助けてくれる。
皆が俺に力を貸してくれる。
ずるい? 卑怯?
なんでも言ってくれ。
そんな意地を張って誰かを死なせるくらいなら、俺は出し惜しみをしない。
テイマーの武器が使い魔であるように。
俺の武器が皆であり──この力も、俺の武器だ。
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