魔法武器《フラガラッハ》──⑦
◆
フランメルンに戻り、ザッカスさんの家を訪ねた。
けど……電気も点いてないし、扉には鍵が掛かってるな。
「どこ行ったんだ……フェン、匂いを辿れないか?」
『うん! すんすん、すんすん。こっち!』
フェンが匂いを辿り、その後に続く。
地面すれすれを嗅ぎ、おしりをふりふり、尻尾をふりふり。
進む先はフランメルンの街中ではなく、隣接している森の中。
日も暮れてるから、足元も見えづらいな。
「クレア……は炎だから木が燃えちまうか。スフィア」
『かしこまりました。……ふっ』
『むぎぎぎぎ……!』
こらこら、こんなところまで来て喧嘩しないの。
スフィアからモーター音が鳴る。
待つことしばし。スフィアの目から、眩いばかりの光が迸った。
これもスフィアに内蔵されてる科学技術の1つらしい。
ライトに照らされた森を、ゆっくりと進む。
『すんすん、すんすん。もうちょっとだよ』
直後、森の中にあるのか広場のような場所に辿り着いた。
スフィアに合図して、ライトを消す。
もう、ライトを使う必要はなくなった。
広場の中央に佇む巨漢。
その目の前には、大きな石と花束、酒瓶。
これが何を意味するのかは、容易に想像できた。
俺達から背を向けているから表情はわからない。
だけど……その背中は、泣いているように見えた。
「ザッカスさん」
「……あんたか。何の用だ」
僅かに振り返るが、直ぐに墓の方に向き直る。
酒を煽り、ため息をつくように肺の中の空気を吐き出した。
「……ダッカスさんのこと、聞きました。お悔やみ申し上げます」
「やめろ。テメェらハンターのせいだろうが」
「そのことですが、今日は誤解を解くためにやって来ました」
「……誤解だとッ……!」
のそりと振り返ったザッカスさん。
その顔は酒のせいではなく……怒りによって真っ赤になっていた。
目も血走り、こめかみには血管が浮き出ている。
「何が誤解だ! 今更誤解を解いたところであいつが帰ってくるわけでもない! 全部……全部無駄なんだよォ!」
ザッカスさんは、俺達への憎悪を吐き出した。
今まで溜めていた怒りを、憎しみを、悲しみを。
その怒りに、憎しみに、悲しみに……真の意味で寄り添うことはできない。
だけど俺は今、この人の言葉を1つだけ否定する。
「いいえ、無駄ではありません。あなたは生きている。これからも生きていく。だから、無駄にはさせません」
「ッ!」
俺の言葉が逆鱗に触れたのか、ザッカスさんは拳を握り締めて迫り、躊躇なく振り下ろしてきた。
「ぐぁっ……!」
お、重い拳ッ……顔面を殴られたのに、もう膝に来てる……!
『コゥ! ガルルルルッ!』
『コハク!』
『ご主人様! この……っ』
皆を止めるように、腕を突き出す。
黙って見ていろ。
そう言うように、皆を睨み付けた。
ザッカスさんは怒りに任せて何度も拳を振り下ろしてくる。
「テメェに何がわかる!」
「がっ……!」
「息子を失った俺の痛みが!」
「ぐっ!」
「息子がどんな思いをして死んだのか!」
「ごふっ……!」
「息子を……ダッカスを見捨てたテメェらハンターに、何がわかるって言うんだあああああああ!!」
バシィッ──!
待っていた、大振りの拳。
そいつを俺は、片手で受け止めた。
「……認めましたね、今。見捨てたって」
「ぁ……?」
「ハンターが犯人だと確信していたら、息子を『殺した』と言うはず。でもあなたは今、息子を『見捨てた』と言った。……本当は気付いていたんじゃないですか? ダッカスさんを殺したのはハンターじゃない、と」
「っ……言葉の綾だッ……!」
吐き捨てるように言い、僅かに後ずさる。
だけどその顔には、さっきまでなかった迷いが浮き出ていた。
「ハンターなんて、くだらないっ。ろくでもない人間の集まりだ! そんな場所に行ったから、あいつは死んだ! 俺があのとき、もっと本気で止めていれば……!」
……そうか、この人は……後悔してるんだ。
コトリさんは言っていた。
ダッカスさんがハンターになるとき、大喧嘩になったと。
そのときに止めきれていれば、ダッカスさんは死ななかったかもしれない。
だけど……たらればを言っても、仕方ない。
「……確かにハンターの中には、ろくでもない奴もいます。それは否定しません」
「ふんっ」
「でも、くだらなくなんかない!」
思わずでた大声。
その言葉に、ザッカスさんは目を見開いた。
「……ダッカスさんは、皆から慕われていたと聞きます。生きていれば、ミスリルプレートのハンターになれた可能性があったとも。……でも強くなるために、生き急いでいたらしいです」
「……あいつは死んだ。そんな話、意味がない」
「いいえ、あります。要点は、何故生き急いでいたのか、です。今からそれを聞き出します」
「……聞き出す? 何を言って……」
そこで俺は、さっきリッチからドロップした紫色の鉱石を取り出した。
「これは死霊の魔石というアイテムです。心に悔いが残っている人が握ると、一時的に死んだ人の魂がこの世に現れるという。ただし、1人の魂につき1回だけです」
「……死んだ人の、魂……」
「ええ。つまり、ダッカスさんの真意を聞くことができます」
俺の予想が正しければ……。
「お願いします、ザッカスさん。あなたが前を向くために……ダッカスさんと、話し合ってください。お願いします」
膝をつき、額を地面に擦り付ける。
殴られてもいい。泥にまみれてもいい。
それでこの人の気が晴れるなら、甘んじて受け入れる。
だけど……この先の人生、後悔だけで生きていこうとしてる人を、俺は見捨てられない。
それだけは譲れない。
「……お前……はぁ……わかった」
「っ、ありがとうございます……!」
立ち上がり、ザッカスさんへ死霊の魔石を渡す。
ザッカスさんの視線は、悲しげに魔石へと注がれていた。
「……ダッカス……。っ?」
直後、魔石から迸る紫色の光。
その光が空中に魔法陣を作り出すと……半透明の何かが魔法陣から現れた。
足から胴、腕、首と徐々に出てくる。
体格も、身長も、そして容姿も……ザッカスさんに似ている。
この人が、ダッカスさんか……。
「ダッカス……お前……!」
『親父……久しぶり』
ここからは……親子水入らず、本音の語らいだ。
面白い、続きが気になるという方は、
【ブクマ】と【評価】をよろしくお願いします!
下部の星マークで評価出来ますので!




