魔法武器《フラガラッハ》──⑥
◆
スフィアの案内で、俺達はある場所を訪れていた。
魔境フルレイド。
ブルムンド王国の南に位置し、死霊多発地帯として有名だ。
流石にこの数は、ウザイことこの上ない。
フェンリルに乗って空を飛んでも、死霊まで空を飛んでくる始末だ。
クレアが炎で焼き尽くしても、次から次へと湧いてくる。
死霊のバーゲンセール。誰得だ。
『あーーーっ! 多い! 面倒だわ!』
『死霊は生者を殺すという本能で動いていますから。私達幻獣種相手でもそれは変わりません』
『あんた、見てないで手伝いなさいよ!?』
『死霊の弱点は魔法の火と光。マッチ棒並の火力でも、あなたしかこれを抑えられません。ほら来ますよ』
『くぅ! 覚えてなさいよ……!』
クレアが両手を天に掲げる。
『《紅炎》!』
空高く現れる紅炎。
まるで小さな太陽のようなそれは、陽が落ちて暗くなった世界を照らす。
直後、クレアが指を弾く。
小さな太陽は爆ぜ、無数の炎弾となり死霊を一掃した。
「おおっ、流石」
『どやぁ。ど〜〜〜やぁ〜〜〜』
『イラッ』
『ほっへはひっはふはー!』
でも、クレアのおかげで目に見える範囲に死霊はいなくなった。
おかげで格段に地上が見えやすくなったぞ。
「スフィア、この辺り?」
『はい、ご主人様』
うーん……障害物はないけど、日が暮れてるからな……暗くて見えない。
『! コゥ、変な匂い! こっち!』
「うわっ」
急な旋回で振り落とされそうになり、慌ててフェンリルの毛に掴まる。
フェンリルの向かってる先。
そこから漂ってくる気配は、俺も感じ取れた。
肌が粟立ち、後頭部に甘い痺れがある。
「スフィア、この気配が……」
『はい。私達の欲しているアイテムをドロップさせる、死霊系最強の魔物──リッチです』
リッチ。
魔術師、魔法師、賢者が、不老不死のために肉体を捨て魔物になった姿。
こっちには幻獣種の3人がいるとは言え、緊張するな。
「不老不死って、どうすれば倒せるんだろう」
『簡単です、ご主人様。こちらにはフェンリルがいます』
「え、フェン?」
『任せて! 任せて!』
確かにフェンリルも強い。
それは重々承知している。
だけど……相手は不老不死なのに、どうやって……?
……とにかく今は信じるしかない。
「頼むよ、フェン」
『やったるどー!』
フェンリルのスピードが上がり、地上へ駆け下りる。
遠くに1つの影が見えてきた。
質量を持つ闇のように揺らめくローブ。
ローブから見える腕には肉も皮もなく、純白の骨。
頭蓋骨にも肉や皮はなく、落窪んだ眼窩には赤い光が灯り、見るもの全てを嫌悪させるようだ。
あれが死を超越した者、リッチか。
リッチが俺達に狙いを絞り、両手をこっちへ向けた。
「《ヘル・ファイア》」
ひしゃがれた声が魔法を唱える。
ただの炎じゃない。漆黒の輝きを持つ黒炎だ。
『私を相手に炎勝負なんて、いい度胸じゃない』
クレアは楽しそうにリッチへ手を向け。
『《ヘル・ファイア》』
リッチの魔法より遥かに巨大な黒炎をぶち込んだ。
「────!?」
悲鳴にもならない悲鳴を上げるリッチ。
見るからに熱そうにのたうち回っている。
「なあ、これ終わったんじゃない?」
『残念ですが、リッチの魔法耐性は魔物界随一です。なので、フェンリルの出番になります』
ここでフェンリルが?
黒炎に当たらないよう、俊敏な動きで避けながらリッチへ迫る。
リッチの目の前まで来たフェンリルが、巨大な口を開け。
「なっ、フェンリ──」
『いただきまーーーすっ』
ボリィッ──!
頭蓋骨を噛み砕く。
同時に耳をつんざく断末魔が周囲へと響き渡り、リッチの体は砂人形のようにボロボロに崩れ去った。
「……え?」
『んふー。まずい!』
いや、まずいじゃなくて……どういうこと、これ?
リッチって不老不死でしょ? 何でこんな簡単に……?
俺の疑問を感じたのか、スフィアが口を開いた。
『リッチは全魔法耐性という力を持っているため、魔法で倒すことはできません。骨は鋼鉄よりも硬いため、物理攻撃もほぼ効きません。なので不老不死と呼ばれていますが、弱点はちゃんと存在するのです』
「弱点?」
『頭です。リッチは不老不死の魔法師や賢者の成れの果て。つまり、その知識の源である頭部を破壊すると倒せます』
なるほど。そんなカラクリだったのか。
「そんな弱点があるなら、なんで世間では不老不死だって言われてるんだろう」
『リッチの頭部は、鋼鉄の3倍の強度ですからね』
「3倍」
そりゃ無理だ。
ミスリルプレートじゃないと、そんなもの破壊できっこない。
「フェンがいてくれて助かったよ、ありがとう」
『ふへへ。ぬへへへ』
尻尾をぶんぶん振り回すフェンリル。
わかりやすく喜んでるなぁ。
っと、そうだ。ドロップアイテム。
「……これ?」
『はい、そちらです』
砂の山の中に光る、紫色の鉱石。
これが……。
「……っ! 急いでザッカスさんの所に向かおう!」
鉱石を回収した俺達は、フェンリルの背に乗ってフランメルンへと向かっていった。
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