魔法武器《フラガラッハ》──③
◆
場所は変わって、フランメルンの酒場。
そこで1人やけ酒なう。
理由は単純。ザッカスさんについてだ。
一言話せば『死ね』。
二言話せば『死ね』。
三言話せば金槌投擲。
取り付く島もありゃしない。
「ずーーーーーん……」
『ご、ご主人様っ、元気を出してください!』
『そうよ、別にあんなやつに頼まなくたっていいじゃない』
『咬み殺してくる???』
やめなさい。
でも……せっかくだから国内最高の魔法武器が欲しかったなぁ。
「何があったんだろ、ザッカスさん……」
「なんだぁ? おいあんちゃん、ザッカスんとこの客かい?」
「え?」
隣の席のおっさんが話しかけてきた。
白髪のオールバックが特徴的で、肌は浅黒い。
ザッカスさんと比べても遜色ないほどの巨漢だ。
「はい、そうですが……失礼ですがあなたは?」
「俺はコトリってんだ」
見た目に反して可愛い名前っ。
コトリさんは相当酔ってるみたいで、呂律が怪しいがザッカスさんについて話してくれた。
「あんちゃん、悪いことは言わねぇ。あいつはやめとけ」
「何でですか? あの人、国内最高の鍛治職人だって……」
「昔は、な」
昔は……?
「どういうことですか?」
「おっと、これ以上は……」
と、人差し指と親指で輪を作った。
なるほど金か。情報提供料を払えと。仕方ない。
銀貨1枚をカウンターに置く。
「おほっ♪ あんちゃんブロンズなのに持ってんね! じゃ、教えてやるよ」
グラスに入った酒の残りを一気に煽り、酒臭い息を吐くコトリさん。
だが、その目は遠く、憂いを帯びていた。
「ザッカスはな、打てなくなっちまったんだ」
「……打てなくなった? 武器をですか?」
「ああ。あいつの専門は剣。ザッカスの名の入った剣は、一昔前では1本白金貨1枚で取引されていた」
「白金貨1枚……!?」
とんでもない額だ。下手なゴールドプレートのハンターより稼いでる。
ただ、金を積んでも手に入れたいとおもわせるほど、ザッカスさんの剣には魅力があったんだ。
「実際、あいつの剣は最高の一言に尽きる。頑固一徹なこの国の職人も、あいつの腕は認めていた」
「そんなにですか……是非見てみたいですね。どこかに売られてないんですか?」
「ああ。表に出てるやつは、あいつが全部壊したからな」
……は? 壊した?
……白金貨1枚する剣を壊した!?
「な、なんで……!?」
「……こっからはよ、俺が言ったって誰にも言わないでほしいんだが……」
「……約束します」
「悪いね。……あのオヤジよ、息子がいたんだ」
いた。過去形。
それが意味することは、俺でも理解出来た。
「あんちゃん、歳は?」
「今年で20になります」
「ザッカスの息子も、生きていたらあんちゃんと同い歳だな」
店員さんに酒のおかわりを頼み、ツマミの肉を食べる。
「死んだのは3年前。ザッカスの息子、ダッカスはバトルギルドのハンターだった」
「バトルギルド……」
「13歳で剣士の天職を得て、そのままハンターになった。当初あの頑固オヤジとダッカスは、そりゃあ大喧嘩をしたってもんさ」
あぁ……つまりは、鍛治を継ぐと思っていた息子さんがハンターになり、そのまま死んでしまった、と。
だからあの人は、ハンターをあそこまで嫌ってるのか……。
「2人は喧嘩別れした。だがザッカスは、毎日ギルドの発行している新聞を見ていたよ。あれには、死亡者リストも載ってるからな。やっぱり心配だったんだろうよ」
親の心か。
愛情深い人なんだな、ザッカスさんは。
「だけど、その日は訪れた」
頼んでいた酒がカウンターに置かれ、口内を潤すように煽る。
「……ギルドの死亡者リストに、ダッカスさんの名前が載ってたんですね」
「……ああ。死体も運ばれてきた。ただ、要点はそこじゃない」
コトリさんは一瞬ためらったような顔をし、ゆっくり口を開いた。
「……ダッカスの体には、斬撃痕があった。つまり魔物に殺されたんじゃない。同じハンターに殺されたんだ」
「っ! そんな……まさか……!?」
「俺達は鍛治職人だ。見間違えることはない。……だが超一流の職人になると、斬撃痕からどんな得物が使われたか推測できる。そしてザッカスは、超が3つくらい付く一流の職人だ。直ぐにピンと来ただろうさ」
……え……それは……。
「……ダッカスを斬ったのは、ザッカスの剣だった」
「────ッ」
嫌な予感が的中した。
自分の息子を、自分の剣が斬った。
自分の剣が、息子を殺した。
つまり──自分が息子を殺した。
そう思うのも無理はない。
俺が同じ立場だったら……恐らく、そう考えていたと思う。
「それから、ザッカスは剣を打たなくなっちまった。いや、打てなくなっちまった」
「そんなことが……」
「ダッカスがなったハンターを、ダッカスを殺したハンターを……そして何より、ダッカスを殺したと思っている自分を死ぬほど恨んでいる。だから、あいつはやめとけと言ったんだ」
「…………」
……なんて言えばいいのかわからない。
とんでもない事情を聞いてしまった、というのが正直なところだ。
まさか、自分の剣が息子を殺すなんて……思わなかったんだろう。
…………。
「……コトリさん、お話を聞かせてくださり、ありがとうございました。急用を思い出したので失礼します」
「おう。またな、あんちゃん」
店員さんに金を払い、酒場を出る。
時間は夕方。そろそろ約束していた2時間が経つ。
1度、ギルドに戻るか。
フェンリルの背に乗り、空を翔けてアレクスの街へ向かう。
『ねえコハク。さっきの話、本当かしら?』
「……わからない。この後、アシュアさんを訪ねてみようと思う」
『あの優男ね。確かにバトルギルドのハンターだし、何か知ってるかも』
「うん。多分、もう戻ってきてるんじゃないかな」
アシュアさん達は、レゾン鉱脈が危険区域になった数時間後には、現場に着いていた。
つまりそれだけ短時間で移動できる手段を持っているってことだ。
「フェン、まずはテイマーギルドだ。頼むよ」
『うん!』
フェンリルが、一層速く翔ける。
数分後には、俺達はテイマーギルドへと戻ってきていた。
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