魔法武器《フラガラッハ》──②
◆
「お、お騒がせしました」
「いえ。こちらこそすみません」
あれから直ぐに目を覚ましたサリアさん。
何度か咳払いをし、改めて鉄鉱石と魔水晶の山を見た。
「すごい量ですね、これは……」
「頑張りました」
「頑張りすぎでは?」
調子に乗りすぎた感は否めないです。
「これだけあれば、ギルドの鉄鉱石不足は解消されますか?」
「もちろんです! 向こう1年は、鉄鉱石不足に悩まされずに済みそうですよ!」
よかった。頑張ったかいがあったってもんだ。
サリアさんは鉄鉱石を手に取り、満足気な顔で頷いた。
「これもこれも、全部上質な鉄鉱石ですね。流石コハクさん。採取クエストの巨匠です!」
そんな称号嫌すぎる。
『よかったわね、巨匠!』
『きょしょー!』
『おめでとうございます、きょしょ……ご主人様』
黙らっしゃい。
「では、鑑定に回します。数が数なので、2時間ほどお時間が掛かると思います」
「わかりました。魔法武器用に魔水晶を少し貰っていきますね」
と言っても、何の武器にどれだけの魔水晶がいるのかわからないな……。
「スフィア。俺に見合った武器のサーチと、その分量の魔水晶を確保してくれ」
『かしこまりました。これからご主人様の体をスキャン致します』
スフィアの目が光り、足元に現れた魔法陣が脚、体、腕、首、頭と上昇していく。
『スキャン完了。筋肉、骨、関節、柔軟性、その他諸々の項目を数値化。及び成長率を逆算。──片手剣が最適かと』
片手剣……使ったことないけど、大丈夫かな。
ちょっと危ない気がするけど……スフィアのスキャンは正確だから、それを信じるか。
「じゃあ、片手剣用に魔水晶を取ってくれ」
『かしこまりました。念のため、鉄鉱石も用意しましょう』
鉄鉱石をいくつか。魔水晶を一欠片手に取り、受け取った。
これだけで片手剣を作れるのか。
初めて作るマイ武器だし、少し心配だけど……ま、大丈夫だろ。
「ではサリアさん。2時間後にまた来ます」
「はい。お待ちしています」
サリアさんにここを任せてギルドを出る。
次はいよいよ魔法武器だ。
「スフィア。魔法武器を作れる鍛冶屋で、ブルムンド王国内で1番腕のいいところを検索してくれ」
『はい。……出ました。ここから南西の方角に鍛冶の街フランメルンがあり、そこにいるザッカスという男が国内最高の鍛冶師です』
鍛治の街フランメルン、ザッカスさんか。
フランメルンの噂は聞いたことがある。
この国の鍛冶師ギルドがあり、常に最新、常に最高の一品を制作する鍛冶師達が集まる街らしい。
ただ、昔ながらの職人気質というか、とにかく頑固な人が多いのだとか。
その中でも最高の腕を持つザッカスさん……どんな人なんだろう。
「……考えても仕方ないか。皆、フランメルンに向かおう。フェン、お願いね」
『お願いされた! 任された!』
俺達は人気のない路地でフェンの背中に乗り、フランメルンへ向かっていった。
◆
フランメルンへは馬車で半日。
フェンリルの足で五分くらいで着いた。
「おお……ここが鍛治の街フランメルン……!」
至る所から鉄と炭の匂いがする。
とんてんかん、とんてんかんと小気味のいい音も、耳に心地いい。
鍛冶屋の前には武器や防具が陳列されていた。
ハンター達だろうか。並んでる装備を見て、あーでもないこーでもないと賑わいを見せている。
『いいわね、活気があって! 私、こういう元気な街って好きよ!』
「ああ。まるで装備品のフリーマーケットみたいで、ワクワクするな」
せっかくだし少しだけ見て回ろう。
ザッカスさんの工房の場所は、予めスフィアに調べてもらってるし。
あっちをキョロキョロ。
こっちをキョロキョロ。
俺には違いなんて分からないけど、武器も防具も様々な形をしている。
三日月のようにカーブしている剣。
蛇のように波打っている剣。
俺よりでかい大斧。
金ピカな防具。
全身トゲトゲしている鎧。
多種多様。色んな需要があるみたいだ。
……あれ? なんだろう、あそこだけ人が集まってる。
『何かしら?』
「……行ってみよう」
人だかりが何かを見て歓喜の声を上げ、拍手を送っている。
人と人の隙間から、覗き込むようにして見る。
人だかりの中心には、ハンターらしき男が1人。
その手には1本のバスターソードが握られてる。けど……なんだ、あれ。赤く光ってる?
『ご主人様、あれが魔法武器です』
「えっ……!?」
あれが……!
男が剣を振り上げ、木で出来た人形に正対する。
「……いやああああああっ!」
気合一閃。バスターソードを振り下ろす!
木の人形が、左肩から右腰に掛けて両断され……切断面から、炎が燃え上がった。
す、すげぇ……!
野次馬から上がる歓声と拍手。
あの人は魔法を使っていない、それなのに、切断面が燃えた! これぞ正に魔法武器!
「すごいすごい! 魔法武器かっこいい!」
これは俄然、ザッカスさんの作る魔法武器が気になって来た!
『ふん、なによっ。あれくらい私にもできるわ』
『むしろ火精霊なのにできなかったら、本当にただの羽虫ですね』
『むかちーーーん!』
「ほら、言い争ってないで行くよ!」
魔法武器♪ 魔法武器♪
フランメルンの地図を見ながら、ザッカスさんの工房へと走る。
ここを右に曲がって、左に曲がると……あっ、あれだ!
看板にも、【ザッカス工房】って書いてある!
『……何かボロくない?』
「クレア。お前は何もわかってない。こういうのを趣があるって言うんだよ」
『そうかしら……?』
そういうもんなの。
扉の前に立ち、ノックを数回。
「あの、すみません!」
…………。
……反応がないな。
「すみません! 武器製作を依頼したいんですけど!」
…………。
またも反応なし。聞こえてないのか?
……うん、そうかもしれん。作業に没頭しすぎて、周りの音が聞こえてないんだ。
流石、ブルムンド王国最高の鍛治職人だ。
……扉は、開いてるみたいだな。
「お、お邪魔します……!」
失礼かとは思ったが、まずは話をしないことには先に進まない。
オープンザドア!
メキョォッ──!!!!
……え?
異音のした方を向く。
と、壁に突き刺さっていた金槌が音を立てて床に転がった。
…………え???
「誰だァ……?」
暗い部屋の奥から、底冷えするような重い声が聞こえる。
この声のヌシが、ザッカスさん……?
「あ、あの……武器を作ってもらいたくやって来ました! アレクスのテイマーギルド所属、コハクと言います!」
「……ギルド……テメェクソガキ、ハンターか?」
「は、はい。なので武器を──」
「死ね」
「──作って……え?」
今……え? 死ねって言われた、俺?
部屋の奥から、床が軋むような音と共に影が近付いてくる。
その人の第一印象は、厳のような人だった。
俺の身長を軽々と超えるタッパ。
筋骨隆々な肉体。
腕も脚も丸太のようだ。
眼光は鋭く、顔に刻まれた無数の傷が痛ましい。
が、顔色は赤く手には金槌じゃなくて酒瓶が握られている。酔ってるのか……?
「あ、あなたが、ザッカスさん……?」
「おうよ。俺ァザッカスだ、死ね」
語尾に死ねって付けないでくれますか。結構傷つくので。
ザッカスさんは酒瓶を煽り、怒りをぶつけるように床に叩き付ける。
その剛力で、酒瓶は粉々に砕かれた。
「俺ァな……テメェらハンターってやつが心底! 死ぬほど! 殺したいほど大っっっっっっっ嫌いなんだよォォォォオオ!!!!」
腹の底から吐き出すように叫ぶ。
その顔は、憎悪と憤怒で歪められていた。
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