女王への神託/国王への神託
◆
ブルムンド王国女王、カエデ・ムルヘイム。
彼女は神託を信じ、国有地へと神殿と祭壇を作ることを命じた。
魔術師ギルドや鍛冶師ギルド総出で作ること3日。
こうして、国内最大規模の神殿を作り上げた。
ステンドグラスには大地の神ガイアが描かれている。
東から昇った太陽がステンドグラスを透過し、神殿内を虹色に照らした。
神殿内には、白い衣装に身を包んだカエデが1人。
祭壇に捧げているのは、旬の野菜や果物。
それを前にして、膝をついて祈りを捧げていた。
祈りとは、願い。
ただ母国の幸せを願う。
今この国にいる全ての人間が、何者にも害されず幸せになること。
カエデは、心の底からそれを祈った。
直後。
祈るカエデの頭上から、暖かな光が降り注ぐ。
陽の光ではない。
いつも夢で感じていた、超常の存在が現れる時に感じる、あの光だ。
『ブルムンド王国女王、カエデ・ムルヘイム。我らの願いを聞き入れてくださり、感謝致します』
「もったいなきお言葉でございます、ガイア様」
『ふふ。……では神託を授けます。手を出しなさい』
「はい」
言われるがままに手を前に出す。
ガイアがその手の上に自分の手をかざすと、小指の先くらいの種が現れた。
『この種を、西にある貧困に喘ぐ村に植えなさい。あなたの手で』
「はい。……失礼ですが、これは?」
『ふふ。ひ、み、つ、です』
(なんだそれ)
『だから秘密なのです』
(心読まれた……!)
ガイアはほくそ笑み、まるで空気に溶け込むようにして消えた。
まるで白昼夢のような現象。
だが、カエデの手の平に残された種が、これは現実だと裏付けていた。
「西の村……ミラゾーナ村ですね」
あの土地はやせ細り、作物の栽培が難しい場所だ。
それでも彼らが住んでいるのは、あの村には伝説が残っているからだ。
歴史上の大英雄、剣聖リューゴが生まれた村。
それを後世に残すために、彼らは今日も必死に生きている。
そんな彼らを、この種が救えるのなら……。
「……誰か、誰かいませんか! これよりミラゾーナ村へ出発します! 急ぎなさい!」
「じょ、女王陛下っ。ですが今日は月に1度のお茶会が……!」
「あんな他人の顔を伺うだけのクソ行事はキャンセルです!」
「ええ!?」
自分には使命がある。
この国の人を幸せにする使命が。
そのためには、超常の存在の力は必要不可欠。
あの存在のへそを曲げさせることは、許されない。
言い知れぬ恐怖を感じつつも、カエデはミラゾーナ村へと急ぐのであった。
◆
「神よ……神よ、神よ、神よ……!」
場所は変わり、ターコライズ王国の神殿。
すっかり痩せこけてしまった国王は、祭壇に作物を捧げて必死に祈っていた。
背後には教祖が。
貴族の当主が。
各ギルドのギルドマスターが。
跪き、ただただ祈りを捧げている。
しかし……何も起こらない。
いつも起こり得る超常現象が、何も起こらない。
「何故ですか、神よ……! 何故我らを見捨てたのですか……!」
絶望。
これを絶望と言わずになんと言う。
ここにいる全員、神の怒りに触れた覚えはない。
これっぽっちも、ない。
しかし──それは突然起こった。
『何故見捨てたのか、ですか。それはあなた方がよくわかっているのではないですか?』
「っ! お、おおっ、神よ……!」
突如現界した超常の存在。
大地の神ガイアは、感情の読み取れない無の表情をしていた。
「神よ、お教えください! 何故我らを捨てたのですか……!」
『……この国には、ある1人の少年がいました』
「……はい? 何を……?」
『黙って聞きなさい』
「申し訳ございません!」
国王の渾身の土下座。
だが、ここにいる誰もがそれを咎めなかった。
何故なら、目の前にいる存在の方が圧倒的に格が上だからだ。
ガイアはそんな国王を見下ろしつつ、話を続ける。
『……その少年は、ハンターになるべく様々なギルドを回っていました。しかしギルドの人間は、彼を嘘つきと蔑み、無能のレッテルを貼り、【門前払い】した……この言葉の意味、わかりますね?』
ガイアの目が、背後にいるギルドマスターに向けられる。
国王もそれに釣られて後ろを見る。
「な……お、お前達……?」
「「「「…………ッ」」」」
後ろに控えるギルドマスター達の顔が真っ青になっている。
脂汗を流し、目を見開き、唇を噛み締めている。
彼らには、思い当たる節があった。
自らを幻獣種テイマーと偽っていた、あの男。
天職カードで、彼がテイマーだということは確認できた。
だがその側には、テイムした魔物……使い魔がいなかったのも事実。
それを、嘘つきと、テイムできない無能の戯言だと決めつけ、【門前払い】した。
大地の神ガイアは、彼を知っている。
そして、そのことについて激怒している。
それを明確に理解できた。
『彼が今どこにいるのか……それを教えることはできません。ですが、あなた方の勘違いを1つ改めようと思いまして』
「勘違いですか?」
『ええ。この国は衰退しているのではありません。あるべき姿に戻っているのです』
「あるべき姿……?」
『以前までは我らが千に及ぶ超常の存在が、この国へ集結していました。その恩恵がなくなった……それだけなのです』
ガイアが国王に向けて微笑みかける。
『これからは、あなた方がこの国を豊かにするのです』
「……承知しました。身命を賭して、この国の復興をお約束いたします」
『期待していますよ』
空気に霧散するようにして消えるガイア。
それを見送った国王は立ち上がり、振り向くと。
「どういうことか……説明してくれんかね?」
「「「「「ッ……!」」」」」
ギルドマスター達は話した。
この7年間、ギルドに入ろうとして国中を駆け巡っていた、あの男のことを。
それを聞いた国王は、眉間に青筋を浮かばせながら静かに口を開いた。
「俺はこの国を愛し、お前達を信用している。が……貴様らの目の節穴具合には、呆れて物も言えん。……その男を探せ。この国へ連れ帰るのだ」
「「「「「ハッ!」」」」」
「これは貴様らのミスだ。次はない。次過ちをおかしたら……どうなるかよく考えておくことだ」
ギルド解体。
左遷。
最悪、死刑。
そんな考えが頭を過った。
「「「「「ハッ!」」」」」
何がなんでもあの男を連れ帰る。
──どんな手を使っても。
◆
『とか考えてそうですね』
『全く……愚かなり、人間』
『あら。剣神様も中々言いますね。これでもあの国王には期待してるんですよ、私』
『真に恐れるべきは有能な敵ではなく、無能な味方、か』
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