新月の神秘──①
「はぁ。新月草の採取、ですか」
1週間の休養を取りテイマーギルドへやって来ると、トワさんから採取依頼を言い渡された。
新月草……聞いたことのない草だな。
「そうなんですよ〜。新月の夜にしか現れない幻の草でして〜。プラチナプレート以上の依頼になってるんですよねぇ〜」
「でもそれなら、新月の夜にその場所に行けばいいのでは?」
現れる場所がわかってるなら、採取も簡単そうだけど。
わざわざプラチナ以上が動く依頼とは思えない。
「それが、現れる場所が完全にランダムでして〜」
「ランダム?」
「1箇所に自生しないんですよ〜。新月の夜が終わると、次の新月の夜には別の場所に現れるんですよねぇ〜」
へぇ。そんな不思議な草があるんだ。
確かにそれは、低プレートでは難しい依頼かも。
「因みにですけど、新月草は何かの薬とかに使われるんですかね?」
「正確にはわかりませんが〜。新月の魔力を持つ物質が必要みたいで〜」
「新月の魔力?」
また知らないワードが。
「新月の夜にのみ蓄えられる魔力です〜。新月の魔力は闇属性を〜。満月の魔力は光属性を帯びているのですよ〜」
「闇属性って、危なくないんですか?」
「魔法薬の研究でたまに必要になるみたいで〜。今まで特に問題は起こってないので、大丈夫ですよ〜」
むぅ……まあ、それなら大丈夫、か?
そういや、闇属性魔法って今まで見たことないな。今度コルさんに見せてもらおう。あの人なら使えるでしょ。
「次の新月の夜は3日後です〜。お願いできますか〜?」
「……わかりました。では準備してから採取に向かいます」
トワさんに頭を下げてギルドマスター室を出る。
さてと。
「スフィア、新月草について教えて」
『承知しました。新月草とは──』
説明自体は長くなるから割愛。
簡単に説明すると、どうやら新月草というのは光を嫌う植物らしい。
トワさんも言っていたが、満月の光は光属性の魔力を新月の闇は闇属性の魔力を帯びるとのこと。
月が満ちた時、聖なる魔力が地上を包む。
月が欠けた時、悪なる魔力が地上を蝕む。
そして完全に月が欠け、光の魔力が届かなくなった時に、闇の魔力を栄養に新月草は現れるらしい。
「なるほど。それは確かに、探すのは難しそうだ」
『はい。闇の魔力が濃い場所に現れるのですが、光を極端に嫌うので炎やライトで照らして探せないのです』
自然光も人工光もダメって、シャイな草だな。
「フェンの鼻じゃないと探せないってこと?」
『ボクの出番? ボクの出番?』
『はい。ですが新月草の匂いがわからなければ、フェンリルでも探すのは難しいかと』
『あぅん……』
確かに。流石のフェンリルも、匂いがわからないとどうしようもない。
薬草と上薬草くらいの違いがあったらわかりやすいと思うけど、そもそも比較するものがない。
フェンリルの鼻もダメとなると、あとはスフィアのマップだけが頼りだけど……。
「光が無いと探せないのはキツいね」
『こんな時にこそ便利な機械があります。私にお任せ下さい』
「本当? 今回はスフィアに頼りっきりになっちゃうね……ありがとう、スフィア」
『もったいなきお言葉です。……ふっ』
『『むぎぎぎぎ……!』』
スフィアのドヤ顔に、フェンリルとクレアが悔しそうに歯ぎしりする。
ごめんて。また別の時には頼りにしてるからさ。
「というか、そもそも新月草って何に使うの?」
『新月草は主に薬の材料か召喚の媒体に使われます』
「召喚の媒体?」
また不穏な言葉が。
『召喚といっても、ほとんどおとぎ話です。まだ誰も成功させたことのない、悪魔の召喚に必要なものとして知られています』
「……悪魔の召喚?」
『ご安心を。完全に眉唾ものです』
「……それ、研究してる人に教えてあげた方がいいんじゃない?」
眉唾ものなら、研究してる時間が勿体ないと思うけど。
『コハク。いいこと教えてあげるわ』
「何?」
『こういう研究してる人間、総じてヤバい奴』
……確かに。
もしここで俺が、「その研究意味ないですよ」とか言ってみろ。間違いなく発狂して攻撃してくるだろうな。
「はぁ……仕方ない。とりあえず3日後の新月の夜を待とう」
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