特訓──⑤
サーシャさんと連れ添って歩き、とりあえず噴水広場を回ることに。
サーシャさんはあっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロと忙しなく見渡している。
「どうかしました?」
「う、ううん。なんか、圧倒されちゃって……」
圧倒?
少し興奮してるのか、頬が上気して鼻息荒く俺の服を引っ張った。
「す、すごいね、ここ。こんなに賑わってたんだ……!」
「来たことなかったんですか?」
「うん。ウチ、あんまり目立つ場所には来ないようにしてるんだ。仕事も忙しいしね」
そうか。ギルドマスターとしての事務仕事もあるし、アサシンとして本業もある。
こうして外を歩くことが少なかったんだろう。
それに、この前みたいに万が一がある。
自分の秘密がバレないよう、極力目立たず生きてきたんだな……。
「今日はいいんですか?」
「うんっ。コハクくんと一緒だし!」
そんな全面的に信頼されても。
いや、信頼してくれるのは嬉しいです。アサシンギルドのギルドマスターと人脈が築けてるってことだし。
でも、こんな嬉しそうな顔を見ると、スフィアの言葉が頭を過ぎる。
『あの嬉しそうな顔。絶対裏があるに決まってます』
裏……裏ねぇ。
「コハクくん、あれっ。あれ食べたいっ」
……あるか、裏? なんか凄く純粋そうなんだけど。
「? コハクくん、ウチの顔に何か付いてる?」
「……いや、楽しそうだと思いまして」
「うん! 楽しい!」
にぱーっ。眩しい笑顔ッ。
『コハク、この子実は単純なんじゃ?』
言うな、クレア。俺も同じようなこと思ってるんだから。
サーシャさんに引っ張られ、牛串を2本購入。
かなりのボリュームだ。串に重さを感じる。
「あむっ。んーっ! うま!」
「確かに。凄く柔らかいですね」
『コハクっ、私も、私もっ』
あー、はいはい。
クレアに差し出すと嬉しそうに頬張った。
クレアからしたら、超巨大な肉の塊だろう。それでもこの柔らかさで、なんなく食べることができている。
『んまーい! やるわねあの肉屋!』
クレアもご満悦だ。当然俺も。
その様子を見ていたサーシャさんが、首を傾げた。
「ん? 幻獣種、いるの?」
「ええ。今日も俺の護衛で」
「女の子?」
「まあ」
「ふーーーーん……」
じーーーーーーーーーーー。
見えないだろうけど、的確にクレアを睨みつけるサーシャさん。
『む。何よ、やろうっての』
と、ファイティングポーズを取るクレア。
え、何。このちょっと険悪な雰囲気。
「……肉の大きさと歯型からして、体長は20から25センチくらい。次の歯型が付く間隔からして、性格は大雑把。でもコハクくんの護衛をしてるから、心配性かつ優しい子。ってところかな」
まさかクレアの人物像を言い当てられるとは思わず、俺もクレアも黙ってしまった。
驚いた。的確だ。
俺が唖然としたのを見て、サーシャさんは「えいっ」と頬をつついてきた。
「ダーメだよ、コハクくん。言い当てられたくらいで反応しちゃ。ポーカーフェイス、ポーカーフェイス」
「は、はぁ……」
「別に何をしようって訳じゃないよ。分析は癖みたいなものなんだ」
頬をつつく手をとめず、少し寂しそうな顔をした。
生まれながらの暗殺者で、楽しむということがなかったサーシャさん。
──寂しい人だ。
「ッ……」
「? コハクくん、どうしたの? あ、強くつつきすぎた? ご、ごめんねっ?」
「あ、いや。大丈夫です、本当に」
「本当ー? 疲れたらちゃんと言うんだよ。あむっ、んまーいっ」
俺は、馬鹿か。
サーシャさんが寂しい人?
ふざけんな、コハク。なんの権利があってこの人を哀れんでる。何様だお前は。
『コハク、よしよし』
クレアには俺の考えていたことが伝わったのか、優しく頭を撫でてきた。
ありがとう、クレア……。
「……俺、今日は頑張ります」
「え?」
「全力であなたを楽しませます」
「え、え?」
「任せてください、サーシャさん。全身全霊、あなたを女の子にします!」
「あわわわわわわっ……!?」
サーシャさんは、顔どころか鎖骨やデコルテまで真っ赤になった。
『ま、しょうがないわね。今回はコハクを貸してあげるわっ』
クレアもやれやれと首を振った。
よし。やるぞ、やるぞ俺はっ!
まだ【評価】と【ブクマ】が済んでいないという方がいましたら、どうかお願いします!
下部の星マークで評価出来ますので!
☆☆☆☆☆→★★★★★
こうして頂くと泣いて喜びます!




