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7.王子の日記(1)

5月30日 快晴


 昨夜は眠れなかった。グロリアのことが気に掛かっていたからだ。


 朝の時点でもグロリアはまだ意識を取り戻しておらず、私は落胆を隠して午前の政務をこなした。グロリアがこのまま亡くなってしまったら。平静を装ったが、胸が張り裂けそうだった。


 しかしなんたる僥倖か、彼女は午後に意識を取り戻したという。フォーチュンの神に感謝し、私は政務を片付けてグロリアの元へと駆けつけた。


 一日ぶりに見るグロリアの優美さ、可憐さと言ったら筆舌に尽くしがたい。立ち居振る舞いは白薔薇、座った姿は森に咲く鈴蘭、こちらに微笑む唇は舞い散る花びらのよう。

 帰りに握った手の白く、柔らかかったこと。その感動に流され、自分が立てた禁を破り、彼女の手に深く口づけてしまったことを私は神に詫びなければならない。


 グロリアがいくら尽くして、こちらを見つめても、私にはそれに応える資格がない。


 私の中の呪いがそれを許さない。


 あの優しく聖女のようでちょっと可愛く抜けているところもある尊い女性を、危険にさらすわけにはいかないのだ。


 婚約を破棄するべきか、まだ私は迷っている。

 グロリアと共に人生を歩めればそれほどの幸せはない。

 だがそれは彼女を呪いに触れさせることになる。


 こうして迷っている時に限って『先生』の声も聞こえない。こんな夜はあの低く重々しい声で導いて欲しいのに。

 先生はグロリアと結婚すべきだという。私の精神を安定させ、呪いを抑えるのに有効だと。だがそんな理由で彼女の一生を奪って良いのだろうか。

 私の中でまだ、答えは出ない。


 この命の続く間、愛しのグロリアを護り、国家と国民にとって最善を尽くせるよう、フォーチュンの神に祈るばかりである。


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