53.おひとよし悪役令嬢ですが断罪引退を目指したい(2) ー満足、そして終了ー
気付けば光り輝く空間に居た。
おっ、無事に死んだっぽい?
『……すごい展開だったね。楽しませてもらったよ……』
ふわっと現れたのは人型の神様だ。相変わらずイケメンですね。最後に目の保養になるわ。
あ、確認ですけど、いちおうこれ、断罪ルート走りきったことになりますよね? ね?
『うーん……まあ、引退後に住んだのかどうか、判定が微妙だけど、ちょっとおまけしてあげる。魔法バラしちゃったの、微妙に反則だったし、前に首輪ももらってるしね。これでチャラだ』
やったー! 私は手を叩いて喜んだ。最後、吐きそうなのをこらえて死んだ甲斐があったってもんだ。
じゃあ、さっそくご褒美の願いごとを。
『そういうと思ったよ。それに君が言うことも分かってるつもりだ』
えへへ、と私は嬉しい気持ちで笑った。話が早いですね。じゃあ願い事……。
エドガー王子の呪いを解き、寿命を全うさせてあげてください!これしかありません!
神様はこちらを見て、しばらく黙っていた。
『……本当に、それでいいの?』
えっ、なんで?
『だって、君の願い事だよ! 君、もう死んでるんだよ!その上、願い事まで他の人のために使っちゃったら、惑星を支配することも逆ハーレムを作ることも超美女として転生することだって……!」
神様はいつになく早口だ。それに必死だった。あの神様が。へえ、こんなこともあるんだなあ。私は首を傾げ(もう首ないけど)神様を見つめた。
支配とか、逆ハー転生とか、それがどうかしたんですか?
『どうかって……』
そんなもの、いらないですよ。
私、いまは心がいっぱいなので。
エドガーにいっぱい優しくしてもらえて、愛してもらえて、それを失う怖さまで味わって。もうマジで大満足ですからね……ハーレムとか今はいいですね……。
あっ、と声を上げて私は神様を促した。
早く、早く王子の呪いを解いてください! 死んじゃう前に!
『大丈夫、いま、この空間は時が止まってるから。でも……王子の呪いを解くと、君はもうここに居ることもできないよ? この世界の普通の人と同じ、魂の海の中にぽとりと落とされて自我を失う』
私ではなくなる、か。
ちょっと怖い。今度こそ、何もかも失ってしまいそうだし。
こうして死んでも楽しく話をしていられたのは、前世からのこの魂の会話があったわけで……。
ん? でもこの世界の人々と同じ転生の海って言った?
てことは、またいつか、どこかでエドガー王子と会えるってこと?
『……君はそこまで、彼のこと……』
私は照れ隠しに笑った。いや、そんなに好きになるつもりはなかったんですけど。
やっぱり、一緒に暮したら、楽しかったんですよ。短い間だけど、めっちゃ満足でした。
毎日他愛ないことでイチャついたり、イチャついたり、イチャついたり……。
『イチャついてばっかじゃん! まあそういう暮らしだったね後半二ヶ月!』
そうそう、と笑って私は息を修めた。
また、いつかエドガーに会いたいな。
恋人になれるといいなって思って、今回は終了しよう。
それから、神様にもお礼を言わなきゃ。
本当にいろいろありがとうございました。モヒカンの相談までして……。
『まあ、あれはあれで楽しかったし』
そう言ってもらえれば嬉しいですけど。
前世の私、本当に寂しく死ぬところだったんで、こうして楽しい思いができて良かった。時間にするとたった3ヶ月くらいですが、本当に楽しかったですよ。神様のおかげです。
うんまあ、と神様が照れたように鼻を掻く。
それからやけに真面目な顔でこちらを見つめた。
『ねえ、君さえ避ければ……僕のアシスタントにならない?』
アシスタントォ!?
思いがけない言葉に思わず魂ごと驚いた。
なんですか、アシスタントって?
『神のお手伝いをするわけだよ。君、けっこう面白いしさ。一緒に居たら退屈しないんじゃないかと思うんだ。アシになれば永遠にいまの自我を保っていられるよ。だから』
私はじっと考えた。でも、すぐにそれを止めた。考えるまでもない。
……お断りします。
『どうして! こう見えてけっこう、気に入った人は大事にするよ!?』
あはは、と私は笑った。
そうですよね、分かってますよ。私のこと、よく見てくださいましたもんね。
でも。
私、やっぱりエドガーとどこかで一緒になりたい。
超好みの、私だけの、特別なSSR★5なリアルの王子様だったので……。
神様は少しだけ残念そうな顔をした。私は慌てて手を(いやもう手はないんだけど)振って弁明する。
あ、神様も十分SSR★5だと思いますよ!? その性格さえ直せば。
『いやそういう慰めはいいから……残念だよ。でもまた世界のどこかで会えるか。それじゃまたね。ああ、安心して、王子の呪いは解除して人間に戻しておくから』
軽い口調で神様は言い、手のひらを閃かせる。ありがとうございますっという私の声が響き渡る。
前世よりも、ずっと良い人生だった。幸せだった。
濃いめの3ヶ月、その土台の18年。裕福だし、幸せだし、恵まれてたな。
いろいろな事から逃げそうで、最後は逃げずに済んだのは良かった。自分、がんばったな。お疲れ、自分。思いっきりやりたいことがやれた気がする。この爽快感は前世にはなかった。もう、未練はないはず。
……なのに、ちょっと泣きたいのはなんでだろう。
涙を堪える仕草が最後の動作になった。
そうして今度こそ意識も解けて、私のすべてが無に返った。




